夏海が初めてアルに出会ったのは、大学三年の夏の終わり頃、
記録的な残暑の続く九月中旬のことだった。

親友の菜々子におしえられた町はずれの住所には、
あらかじめ聞いていた通り、
荒れた草むらの向こうに五階建ての古い団地がぽつんと立っていた。

コンクリートの壁にはあちこちヒビが入っていて、
あたりに人影は全く見えない。

菜々子の言うような不思議な能力を持った人間が、
本当にこんな寂しいところに住んでいるのかしらと思いながら、
夏海は恐る恐る建物の中へ足を踏み入れた。

とたんに、外の暑さがウソのような、
ひんやりした空気が彼女のからだを包む。

まだ昼過ぎだというのに、まるで夕方のように
薄暗い階段を一歩一歩上るたびに、
異次元の世界へ足を踏み入れていくような感覚が増していった。