彼女達と別れた後にその事件は起こった。

「なぁ、小暮?」
「なんだよ、日向。」
「鍵、無くした。」
「なんの?」
「部室の。」
「「「「………。」」」」

皆で冗談だろみたいな顔で日向を見る。だが、日向はいかにも真面目そうな顔でこっちを見つめていた。俺はもう一度尋ねた。同じことを。

「何を無くしたんだ?」
「鍵。」
「なんの?」
「部室。」
「ふざけんなよ!!!この糞ガキ!!!おい、てめぇら!!!」
「「「「はい!!!」」」」
「死に物狂いで鍵を探せ!!!」
「「「「はい!!!」」」」
「やっぱりこうでなくっちゃっな!!!」
「何、楽しんでんだよ。無くしたの誰だと思ってんだよ!!!」
「お・れ♪」
「お前もう、死ね!!!」

保育室には暗黙のルールがある。

"部室の鍵を無くしてはならぬ、無くしたもの死するのみ"

このルールを破ったものに訪れるのは…永遠の眠りつまり、"死"のみ。

このままだと、日向は確実に死ぬ。奴の手によって…。そんな酷い現場は見たくはない。日々谷だったら気にはならないが、むしろ俺も参戦する。

「今、物凄い嫌な予感がした!!!」

まぁ、ひとまず皆で鍵を探すことになったのだが…

「どこで落としたのか、まったく覚えてないのか?」
「まったく!!!」

ドヤァとでも言いたげな自慢顔で即答されてしまうともう、手の施しようがない。

まず鍵当番を取り入れたのが悪かったのだ。まぁ、日々谷も俺も用事がありいけない日もそりゃああるが、鍵当番を決めてしまったことによりこんなことになったのだ。日向の自己管理能力の問題もあるが…。そんなことを考えていたら、

「小暮さん、小暮さん。」
「なんだ?鍵、見つかったのか?」
「いえ、まだ。でも少し気になることがあって…」
「気になること?」
「はい。さっきっから小暮さん、なんか楽しそうなのでどうしてかなぁと思いまして…」

鍵さがしが楽しいものか!!!と、いいたくもなったが、ちょっと今の現状を楽しんでいる自分もいた。なんか…

「俺ららしいなって思わねぇか?」
「ちょっと思います。」
「だからかな?ちょっとだけ、楽しいとおもっちまう。」
「私も同じです。」

夕月と意見が同じだと思うと、ちょっと笑えてくる。こんな小さい子も俺と同じようなことを考えているのだ。いや、俺が小さい子と同じことを考えているからなのか。よくはわからないが、2人でクスクスと笑った。

「そうだ!!! 小暮さんに言わなきゃいけないことがあったんです。」
「なんだ?」

夕月が言わなきゃいけないことがあると言われると何故か少し身構えてしまう。彼女は俺の耳元に近付いてきて、小さな声でとんでもない事実を淡々と俺に告げた。

「実は日向君、鍵無くしてないんですよ。」
「はぁ!?」
「あまり大きな声を出さないで下さい。バレちゃいますよ?」

夕月はまたクスクスと笑う。俺はちょっとだけ恥ずかしくなった。

「本当は、小暮さんにかまってほしくて自分で隠し持ってるんです。小暮さんは人気者ですね。」

夕月は楽しそうに笑った。

夕月の言っていたことが本当か嘘かはわからないし、夕月が嘘を言うとも思えない。

「鍵、あったぞー!!!」
「ほんとだ!小暮、あったぞー!!!」
「夕月ちゃんとイチャついてないで早くおいでよ、小暮!!! 部室いこう!!!」
「日々谷、殺す。」
「私もお手伝いします。」
「何2人して殺気を込めた目でこっちを睨み付けながら近付いてくるんだい?これはマジなパティーンかな?かな?…僕はまだ死にたくなイヤァァァァァァァ」

こんな馬鹿みたいな日常が俺ららしいのだ。

「行くぞ。日々谷は放っといていいから。」
「「「はーい!!!」」」
「誰も僕を助けてはくれないんだね…。ガク…。」

「日向!!!」
「なんだ?小暮!!!」
「遊んでほしいならいくらでも言え。付き合ってやるから。」
「え!いいのか?」
「あぁ、いいよ。」

やったー!!!と叫びながら大喜びする日向。なんだかんだ言って我慢をさせていた部分があったようだ。どうしても女子を優先してしまったのは反省すべきだろう。こんな簡単なことでもここまで喜んでもらえるとすごく嬉しいものだ。

「日向だけ、ずるいー!!!」
「確かに日向君だけズルいです。」
「ちゃんとお前らの遊びも付き合うよ。」
「ほんとだな?」
「男に二言はないですよね?」

2人のキラキラとギラギラした目に俺は若干、嫌な予感を抱えながらも、

「…ねぇーよ。ちゃんとお前らの遊びも付き合うよ。変なのじゃなかったら。」
「変なのじゃなかったらを強調しないで下さい。」
「だってお前ら、変な遊びばっかりしてんじゃねぇーかよ。」
「変って何がだ?」
「そうです!私達は、アニメの真似事や新婚さんごっことかお医者さんごっこしてるだけです!!! 小暮さんだったらどうしてくれるだろうって妄想つきで!!!」
「ろくな遊びしてねぇな!? なんかこぇよ!!!」
「でも…付き合ってくれるんですよね?」
「え?…いやぁ、その…」

完全に小夏と夕月の目がマジだ。ヤバイ!俺が迂闊な発言をしたばっかりに俺はまた、犯罪者の道に一歩ずつ近付いていく…。グッパイ!俺の普通の生活!そして、ウェルカム!犯罪者への生活!

「何だ、日々谷。お前はまた死にたいようだな?そうだよな?お前、ドMだもんな?いいよ?俺は、いくらでもお前をイカせてやるよ。」
「ん?…なっ、なななな何を言ってるのかな!?落ち着こうよ、小暮!!!何か猛烈に勘違いを生むような発言をしたよね?ねぇ?」
「…小暮さんは……そっち系の人だったんですか…?」
「そっち系って、何だ?」
「それ、俺も気になる!!!」

多少…いや、大分凄い勘違いをされた気もするが、後で弁解しておこう。今は日々谷を気持ちよくイカせてやるのが先だ。

「…日々谷……?」
「なっ、何でしょうか?」
「地獄に堕ちろ…。」
「え?え?なんか超怖いんだけど…って…イヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

俺が日々谷をいたぶっている様子を見て溜め息をつく三人。

「いつも通りだな。」
「うん。」
「そうですね。心配しなくても大丈夫そうです。安心しました…。」

と、変な会話をしていた。