寒さにうち震えながら、屋上にでた。
いくら今日が雲ひとつない晴天と言えども、
12月の晴天はただの寒い日と変わらない。

流石にワイシャツとカーディガンだけでは寒くて、両手で肩を抱いた。


「鈴禾くん?いるよね?」


広い屋上の隅の方に影を見つけて、声をかけながら歩み寄る。

彼、鏡野鈴禾(すずか)君はワイシャツ1枚で屋上に寝っ転がってイヤホンをしていた。




「鈴禾くん。」


「……琴梨か。先生かと思った。どうしたの?」



寝っ転がる鈴禾くんを覗きこみながら声をかける。
鈴禾くんはイヤホンを外しながら、起き上がった。



「どうしたの、はこっちの台詞だよ。鈴禾くん。夏から、もう3ヶ月も経ってるのに全然部活に来てくれてないよね。

ずっと、閖志くんが大丈夫だから、って言ってたんだけど…さすがに部活来てくれないの?」


「閖志が止めててくれたんだ……

ごめんね、琴梨。俺、もう部活には行かないから。」


「え……?」



私の聞き間違い、なのかな。
鈴禾くんがもう部活に来ないなんて。

立ち上がった鈴禾くんは少しだけ目を伏せている。



「どう、して……」


「それは琴梨には関係ないでしょ?

俺はもう、部活には行かない。バスケもやらない。」


「鈴禾くん………」



切なく消えそうに笑う鈴禾くんに私は何も言えなくて。



「来てくれてありがと、琴梨。
……俺はそれだけで十分だから。

宗介達が練習してるんでしょ?早く体育館に戻りな。」



私の肩を1度だけ寄せると、鈴禾くんはそのまま私を階段の方へと押した。

私は少ない勢いでとぼとぼと進む。


ドアに手をかけてから振り返ると、鈴禾くんは優しく、だけど悲しそうに笑った。


その笑顔を見ていられなくて、仕方なく屋上のドアを開けて、体育館に向かう廊下を歩く。



鈴禾くん………
バスケはしない?……それとも、できない?

私には分からないことが多すぎて、どうすることもできない。





ついた体育館。

中から音のする体育館の扉を開けて、私は中に入った。