恋と呼ぶにはまだ、






 気になっていない、といえば嘘になる。
 あんなに思い出せるのだから。

 ただ、私は触れたいだなんて思わない。触れたら、なんだか壊れてしまいそうだから。何故みんな触れたがるのだろう。その人は、その人でいいのに。自分の手元になくても、その人がその人であるなら、それでいいのではないのか。
 あの唇に触れたい、だなんていうよりも……。
 私は、安らげるなにかでありたい。






「変なやつだな」
「博人に言われたくないよ」



 書棚に本を戻す。
 古い本ばかりが書棚にならび、背表紙が日焼けしてしまっていた。だけど、そんな古い本も私には好ましかった。いったい、いつから読まれていないのだろう。選ばれないで、埃をかぶり、誰かを待っているのだろう。
 新しい本は、艶かなそれを見せて誘う。
 まるで、私たちの年代の子みたいだ。
 それでもやはり好みがあるから、未だに借りられた形跡がないのもある。それが、きっと私なのだろう。

 背表紙を指先でなぞりながら、私は書棚の前を移動していると「本当、変わってるよ」といっている声に、私は苦笑する。変わってる、か。それが、私の精一杯でしかないだけなのだが。
 背表紙に指をかける。
 その時だった。 




「俺は好きだぜ、そういうの」





 振りかえって「なによそれ」といいたかったが、やめた。
 今私の顔は相当、赤くなっているだろうから。
 



 
 《恋と呼ぶにはまだ、》




14/6/7