「それ、どうしたの?」


奇妙なふたりぐらしをはじめて一週間。

もともと仕事で家にはあまり帰らないので、朝晩顔を合わせるだけの悪魔との生活にも慣れてきたころ。

家に帰った私は目を見開いた。

悪魔がテレビを見てゲラゲラと笑っていたのだ。



「買ったんだ。暇だったから」



テレビから目を離さずに答えた悪魔の言葉に首を傾ける。


買った?
どうやって?


お金はどうしたのか。そもそも、悪魔の姿は私以外には見えないのではなかったのか。

私のそんな疑問に悪魔は簡潔に答えた。



「金はアンタの貯金をおろした。姿は、意識すれば誰にでも見せられる」



そうか納得だ。
いや、ちょっと待て。



「私の貯金おろしたって言った?」

「ああ、悪いか?どうせ使わないだろ」



テレビがコマーシャルに移り、ようやく私と目を合わせた悪魔は、銀行印と通帳をひらひらと振って見せた。



「返して!」



私は印鑑と通帳を奪い返すと、仕事用の鞄にしまった。

明日からは持ち歩こう。



「なんだよ。なんでそんな怒ってんだよ」

「勝手にお金使われたら、誰だって怒るわよ」

「アンタ、そういうのに興味ないと思った」

「貯金は趣味なの!」

「……マジかよ。趣味かよ」



悪かった。と案外素直に謝る悪魔に、バイトして返すように約束させて、私は苛立ちを納めるべくシャワーを浴びる。

バスルームから出ると、悪魔はぼやきながら、私の携帯でバイトの求人を読み漁っていた。



「本気でバイトするの?悪魔なのに」

「アンタがやれって言ったんだろ。つか、悪魔として認めてくれるなら早く望みを言え。俺を帰らせろ」

「無理」

「はあ、なんで俺はこんなヤツに呼ばれちまったんだ」

「別に呼んでないから」

「いつもそれだな」



そう言って携帯から顔を上げた悪魔が目を見開く。

あ、そういえばバスタオル巻いただけだった。

風呂場に着替えを持ち込むのを忘れたのだ。


「なんつー格好してんだよ、早く服着ろ!」

「やだ。また鼻血」

「うるせー。アンタ外見だけは俺の好みなんだよ。早く服着ろ。襲うぞ」

「最低。溜まってんなら外で晴らしてきてよ」

「女がそういうこと言うな!」



他人と暮らすのは難しい。

少し危機を感じた私は、棚から服を掴みとり、バスルームに引きかえしたのだった。