「松永さん。今日こそ飲みに行きませんか?」



いつものように率なく仕事をこなし、会社を出ようと席を立つと、後輩の三上君に声をかけられた。


入社1年半の彼の教育係を任されていた私は、半年前まで彼に仕事を教えていたのだが、何が気に入ったのか私に懐いてしまい、今に至る。


彼によると「2年しか変わらないのに、バリバリ仕事をこなす先輩はかっこいい」……らしい、が意味が分からない。


憧れるのは勝手だが、付き纏わないで欲しいと思う。


私は基本ひとりが好きなので、側に寄って来る人間は男女問わず苦手だった。



「ごめん三上君。他の人誘って」



嘆く三上君を置いて、私は会社を後にする。


早く家に帰って、ひとりでのんびりしたい。

私は早足に駅に向かった。







「よう。おかえりー」



アパートに帰ると、そんな声に出迎えられ、私はため息をこぼす。


そうだった。

家に帰っても一人じゃないんだった。


今朝と変わらぬ様子で、部屋に居座っていた悪魔を睨む。



「まだいたの」

「アンタが望みを言ってくれないからな」



大きなあくびをしながら立ち上がった悪魔の右頬には畳の目の後が、くっきり着いている。

どうやら一日中寝ていたらしい。


「そんなに昼寝ばかりするから、夜寝れなくなるのよ」

「だって暇だったんだもんよー」

「本でも読むか、散歩に出れば良かったじゃない」

「……アンタ。普段暇なとき、そんなことばっかしてんの?」

「悪い?」



哀れみの目で私を見る悪魔を再び睨む。

読書と散歩の何が悪いというのか。昼寝より、よっぽど有意義だ。



「なあ。アンタさ。なんで仕事してんの?」

「は?なによ。いきなり」

「いや気になったんだよ。生活は質素極まりないし、趣味もないし。金使わないだろ?そんなに働く必要ないんじゃねえの?」



不思議そうに尋ねる悪魔。

なんで、仕事をするのか。そんなの決まってる。



「暇つぶしよ。仕事がなかったら、やることないじゃない」

「はあ!?嘘だろ!暇つぶしなら、もっと他に楽しいことがあるだろ」



なんて女だ。そう嘆く悪魔を横目に、私は部屋着に着替えて、夕食用に焼いたトーストにかじりつく。



「だから、いきなり着替えんなよ!つか、夜もトーストかよ!」

「だって、今、食糧パンしかないもの」



悪魔は絶句した。