「なあ、アンタ。なんで、こんな貯金あるのに、ボロアパートに住んでんだ?」



次の日、目を覚ますと、悪魔が私の部屋を物色していた。


どうやら、結局寝れなかったらしい。


悪魔は、「ついでに、荷物開けといてやったぞ」なんて、偉そうに言うが頼んでない。


確かに、残りのダンボールが全て開けられ、部屋が綺麗にセッティングされて助かったが、私物を物色されるのは気分が悪い。


私は、悪魔から通帳を奪い返して、タンスの奥にしまった。



「私がどこに住もうが勝手でしょ」

「いや、そりゃそうだけど。あんだけ金あるなら、もっと綺麗で広い部屋に住みたいとか思わねえの?」

「思わない。この部屋で十分じゃない。駅から近いし」



寝て、食事して、入浴する。

それができれば、なんら問題はない。これ以上何を望むというのか。

私は、昔から無駄なものを持つのが嫌いだ。


ここは、会社からの距離も調度よく、プライバシーも守られるので、最高だ。

そう私が言うと、悪魔は呆れた顔で私を見つめた。



「でも、この部屋。女の一人暮らしには見えないぜ?」

「ベッドと机と収納があればいいじゃない。何がいけないの」

「畳なのに、なんでベッドなんだよ。っていうか、女なら、もっとオシャレにしたいとか思わないわけ?」

「余計なお世話」



私は悪魔に背を向けて、キッチンに立ちトースターに食パンを一枚いれてタイマーをセットする。

そして、流しで顔を洗ってさっと髪をまとめ、部屋に戻ってスーツに着替えた。



「おい!オレいるのに普通に着替えるなよ!」

「あ、ごめん。つい癖で。でもここ、私の部屋。貴方がいる方が悪い」

「少しは恥じろよ。つか、俺、男だぞ。悪魔だけど」

「あっそ。勝手に興奮しないでね。気持ち悪い」

「こっ、この鼻血はちげーよ。昨日、アンタが畳で殴るから、中の血管が切れてクセになってるだけで……!」

「はいはい。そうですか」



鼻血を押さえながら訴えかける悪魔を、適当に言い負かして、私はトーストにかじりつく。



「後ろ向いててとか、それくらい言えよな」



納得いかないように、ぼそりと呟く悪魔を無視して、食事を終えた私は化粧を済ませる。



「じゃあ、行ってくるけど、部屋荒らさないでね」

「荒らすもんねえだろ」



もちろん、悪魔は留守番だ。


私は、バタリと扉を閉めたのだった。