「なあ、この部屋、客用の布団ないの?つか、部屋狭すぎじゃね?」

「おい、アンタ。アイマスクに耳栓にマスクなんて、完全装備だな。怖いぞ。あと暑苦しい」

「アンタ、綺麗だけど彼氏いないだろ。絶対」



五月蝿い。

実に五月蝿い、この悪魔。


外でわんさか鳴いてるセミの方がマシなくらいだ。



私は完璧に真っ暗で静かな環境にならないと眠れないのに。


セミの声は耳栓でシャットアウト出来るが、悪魔は耳栓をしている私に配慮(?)して、頭の中に直接話しかけてくるので効果がない。



先程の夕食時に、悪魔は食事を必要としないことが分かり、食費が増える心配もないし、いないものとして考えれば、一緒に暮らすのもいいか。


なんて妥協したのだが、撤回だ。


こんな五月蝿い男を、"いないもの"として扱える訳がない。



「なあなあ、俺もベッドで寝かせてくれよ。タダでイケメンと添い寝できる機会なんて、そうそうないぜ?」

「暑いから無理」



確かに男、いや、悪魔は、人間離れした整った顔をしているが、私は興味がない。

この暑いのに、何が悲しくて添い寝なんかしなくてはいけないのか。


きっぱり断る私に、悪魔は食い下がる。



「大丈夫だって。ほら、俺、悪魔だから体温低いし」

「それでも、無理。側に他人がいたら寝れないから」

「えー。頼むよ。床じゃ寝れねえよ!単でさえ、俺、さっきまでたっぷり昼寝したから眠くねえのに」



ガキか!

というか、悪魔って何。そんなに暇なの?

見習いなら、修業するなりなんなり、何かやることはないのか。


悪魔の世界はどうなってるんだ。



「ねえ。私、貴方みたいに暇じゃないの。明日は仕事だから早く寝かせて」

「なんだよ。俺を暇にさせてるのはアンタだろ」

「私は事故で、貴方を呼び出しちゃっただけだし、私が引き止めなくても、普段から、たっぷり昼寝できるくらい暇なんでしょ」

「なんだよ!それ!心外だ」

「五月蝿い。もう黙って。おやすみ」



いよいよ鬱陶しくなった私は、それだけ言うと、タオルケットを頭まで被り、悪魔に背を向けた。


悪魔はチッと舌打ちしたが、ようやく諦めたようで静かになってくれた。


私はゆるりと、眠りについたのだった。