「信じる気になったかよ?」

「まあね」

「……アンタ、意外と物分かりいいんだな」



結論から言うと、写真に男は写らなかった。

何かトリックがあるのかと考えたが、私のカメラで私が撮影したのだ。

何か仕掛けるような時間はなかった。


信じ難いが、確かに男はこの世の者ではないのかもしれなかった。


何枚とっても、男は写らず、写真には汚い和室が写るだけなのだ。

自分の目で認識したのだから、信じるしかない。



「で、貴方は悪魔なの?」



私が率直に問うと、男は「いかにも」と頷いた。



「つっても見習なんだけどな」

「なんだ。半人前か」

「ウルセーな。見習いの中じゃ、成績トップなんだぜ。それに今回、アンタの願いを叶えて対価をもらったら、俺は一人前だ」



悪魔に見習いや成績なんてものがあるとは初耳だ。

いや、悪魔が実在するということ自体が初耳なのだが。



「で、貴方は、どうやったら帰ってくれるの?」



私は今、1番気になっていることを口にした。


さもここで一緒に暮らすかのように、畳を直し、部屋の片付けをはじめた男に私は危機感を持っていた。

邪魔以外の何者でもない。

私にだってプライベートというものがある。

そう悩む私に男はさらりと、答えた。



「アンタが俺に望みを言ってくれりゃいいんだよ」

「それだけ?」

「ああ。で、俺がその望みを叶えて、それ相応の魂を頂く。そしたら契約は完了して、俺もアンタも解放される。」

「魂とられるの?」

「当たり前だろ。俺は悪魔だぜ?無償で望みを叶える訳ねえだろ」

「何もしなくていいから帰ってくれない?」

「それは契約上無理。例外はない」



なんて理不尽な契約だ。

悪魔じゃなかったら、消費者センターに通報してやりたい。


変な物を畳の裏に仕掛けた前住人が恨めしい。


私はため息を着いた。

そして、対価が小さそうな望みをいってみる。



「……窓拭いて綺麗にして」

「んなもん、自分で出来るだろ」

「じゃ、畳張替えて。汚いから」

「それは畳屋に頼めよ」



ことごとく却下される私の望み。

男曰く、魔法陣には種類があり、あれは高位な術式だったらしい。