「で、先輩。この人だれ?」



教官との話が一段落し、紅茶を飲んでいた私の前に、いつのまにか戻ってきていた悪魔の後輩が立ちはだかる。

仁王立ちで私の前に立ち、指を指してくる少年に、悪魔は少し悩んだあと「俺の主人」と答えた。

後輩達は口々に感嘆の声をあげる。



「えー!召喚中ってホントだったんスか」
「先輩、噂になってますよー。全然帰って来ないから」
「そんなヤツ殺して帰って来ちゃえばいいのに!」
「ね!魂だけ取っちゃえばいいのよ!」



敵意剥き出しで私を睨みつけてくる悪魔の後輩達。

五月蝿い上に物騒だ。教官にも同じ事を言われたが、静かだからマシだった。


私は失礼な彼らを無視して紅茶をすする。


教官はそんな私を見て苦笑し、悪魔は後輩達を宥めた。



「おい。俺の主人だぜ?あんま悪く言うなよ」

「えー。でも先輩、早く魔界に帰りたいでしょ?その女、一体どんな望みを言ったんスか。先輩が手こずるなんて」

「望みがねえんだ。呼ばれたのは事故だった」

「ひどい。災難ッスね」

「ま、いいんだよ。俺は結構、今の状況が気に入ってんだ」

「えー」

「俺が決めたことだ。オマエらに文句言われる筋合いはねえよ」



悪魔がコツリと後輩の頭を殴る。

後輩達は不服そうな顔をしているが、教官はにこやかだった。



「ほら、君達。先輩を困らせては行けませんよ。それに、そろそろ帰る時間です」



教官が立ち上がり、杖を空気に突き立てる。

すると、大人1人が余裕で通れるくらいの景色が歪んだ穴が現れた。

そこだけ蜃気楼が起きているようだ。


いつの間にか、周りに客はいなくなっており、辺りには薄く霧がかかっている。



「さあ、入りなさい」



教官が生徒達を促す。

後輩達は名残惜しそうに蜃気楼の中へと入っていった。

その中のひとりが振り返る。



「先輩。いつ帰るんスか」

「さあな。百年以内には帰るよ。ほら早く行け。教官が疲れちまうだろ」



悪魔が後輩の背を蹴飛ばし送り出した。

最後に残ったのは教官だ。

私と悪魔に向き合い、にこやかに微笑む。



「ベル君。お遊びも程ほどにな。しばらくそちらに留まる事は、私が伝えておこう」

「ありがとよ」

「お嬢さん。ベル君を頼みますよ。では」



教官が穴へと足を伸ばす。

彼が消えると、辺りには客が戻り霧もすっかり晴れていた。