「人間界を廻る社会見学なんですよ」

「ああ。そういえば、悪魔がそんなことを言ってた気がします。人間界の体験ツアーだとか」

「ははは、彼はそう言っていましたか。確かに学習というよりも旅行色が強いですね。みんな遊びに来た感覚ですよ。困ったものです」



海が見えるバルコニーのレストランで、私は教官と向き合って座り紅茶をすする。

ブランド服の店内で騒ぐ悪魔と、その後輩たちが、店の雰囲気を害すると判断した教官の提案で、私たちは今、アウトレットモール内に併設されたフードコートに来ていた。


テーブルに座り、食後の紅茶をすする私と教官の目線の先には、広いバルコニーから身を乗り出し、海を見てはしゃいでいる悪魔の後輩たちの姿があった。

悪魔は、一応先輩としてそんな彼らを見守っているようだ。そばで彼らを宥めながら笑っている。



「慕われているんですね。悪魔」

「ええ。彼は後輩たちの憧れの的ですからね。彼ほど強大な力を持っている悪魔は、近年では稀なんですよ。上が詰まってましてね」

「上が?」

「私たち悪魔は、力を持つものほど長命なんです。強大な力を持つ悪魔は魔界での絶対数が決まってましてね。彼らが死なない限り、強大な力を持つ者は生まれないんですよ」

「へえ」


眷属がどうとか、血筋がそうとか、様々な魔界事情を話す教官の話に頷きながらも、正直そんなに魔界事情に興味がなかった私は、ぼんやりと話を聞き流す。

とりあえず、悪魔が慕われている理由はわかったからもう十分だ。見た感じ悪魔は面倒見が良さそうだし、それで強大な力を持っていれば後輩は懐くだろう。


空になったティーカップに新たに紅茶を注ぐ。

そんな私を見て、教官は愉快そうに笑った。



「これは失礼。あなたが興味をお持ちなのはベル君のことだけのようですね。魔界の事情などには興味がなさそうだ。要らないことを話してしまいました」

「ベル?誰です?それ」

「彼の名前を知らないのですか?」

「もしかして悪魔のことですか?」