「なあ!アンタ選んでくれよ」

「嫌。なんで私が」

「だってセンス良いじゃん。服だけはオシャレだ。家も家具もボロボロなのに」

「……服は私が選んでる訳じゃないからね」

「え?」



悪魔がマヌケな声をあげる。そして、少し慌てた様子で、勢いよく問い詰めてきた。



「誰に!?つか、いつ?アンタ仕事関係以外で誰かと会ってんの?」

「ちょっと。五月蝿い」



騒ぐ悪魔に視線が集まり、私は静かに悪魔を睨みつける。

悪魔は察しは良いので、ぐっと唇を噛みしめて、口をつぐんだ。



「あのね、何に興奮してるか知らないけど急に大きい声出さないでよ」

「悪ぃ。でも気になったんだよ。アンタもしかして友達いるの?」

「まさか。いるように見える?」

「だよな。……ってことは彼氏かよ。嘘だろ!」

「だから五月蝿いって」



五月蝿い悪魔に、本日三度目の溜め息を吐く。

どうして折角の休日に、こんなに疲れなければいけないのだ。


悪魔は声のボリュームは抑えたものの、相変わらず慌てた様子で私を問い詰める。

こういうのは苦手だ。鬱陶しい。



「なあ、彼氏なのかよ?」

「いないわよ。そんな鬱陶しいもん」

「じゃあ誰?焦らしてないで教えろよ」

「貴方がずっと喋ってるから答えらんないんでしょ。服を選んでんのはお母さん。どう、満足?」

「オカアサン?」

「そう、母親」

「……アンタ、親いたのかよ。想像できねえ」

「いるわよ普通に。二人とも健在よ」



失礼なヤツだ。

独り好きな私の性格や、日々の態度から、悪魔は、私に親がいないと思っていたらしい。



「両親は普通なのか?」

「普通よ。だから服なんか、送ってくるんじゃない」

「普通なのか?それ。いや、人間の事情なんか知んねえけど」



悪魔は首を傾げるが、私にとっては普通のことだ。


昔からファッションに興味がなく無頓着だった私は、そのことを歎く母に、服やメイクを無理矢理コーディネートされていた。


『せっかく可愛くうんであけたのに』


そんな恩着せがましい台詞が口癖な母は、私が独立した今でも、毎シーズン服や化粧品を送り付けて来る。


化粧品は仕事で使えるものもあるが、服は着る機会がないからいい迷惑だ。

収納に困り、大体はすぐ売ってしまうのが常だった。