「あれは彼氏じゃないよ」

「……!やっぱり、そうだったんですね!」



私の言葉に嬉しそうに反応する三上君。

どうやら私の言葉に疑いはないようだ。

我が部下ながら素直なヤツだ。


でも、やっぱり気になるらしい。三上君は首を傾げた。



「じゃあ、あの人は誰だったんですか?」

「従兄弟よ。最近、近くに越してきたの。いきなり迎えに来たから、私も驚いたわ」

「あの日、豪雨でしたからね。でも、従兄弟だったんですか……。確かに、すごい美形だったらしいって、女の子が騒いでました。松永さんの親戚なら納得かも」



信じた。

三上君が素直で良かった。


人付き合いの悪い私が、"ただの男友達"なんて言っても信じてもらえないだろうから、身内だと説明するのが1番だ。

しかし、弟だと言ったとして、誰かが私が一人っ子だと知っていたら面倒なことになる。


結果、従兄弟が妥当かと思ったのだが正解だった。



「噂って困りますよね。嘘ばっかりだ。まあ僕も信じちゃったから、悪く言えませんけど」

「いいのよ。その内みんな飽きて忘れるわ」



私はそう言って、デザートのヨーグルトを食べ終え立ち上がる。

三上君も私の後に続いてトレイを返し、来たときと同じように、一緒にエレベーターに乗り込んだ。


静かにエレベーターが上昇を始め、どこにも止まることなく、私達のデスクがある18階のランプが点灯した。



「……あの、松永さん。またランチご一緒してもいいですか?」



エレベーターから降りる直前。三上君が恐る恐る聞いてくる。



「気が向いたらね」

「本当ですか!っしゃ」



そんなに嬉しいか。

まあいいけど。



「騒いでないで、仕事に戻るわよ。プロジェクト参加してるんでしょ」

「はい!」



ハキハキと返事した三上君がデスクに向かうのを見送り、私も仕事に戻ったのだった。