「なんだこれ」



せっせと畳をあげて、掃除機をかけていると、なにやら畳の裏からA4サイズ程の紙が剥がれ落ちたので拾い上げる。


紙には、円の中に五芒星が描かれており、その周りに何やら見たこともないような文字が並んでいた。


紙は、結構新しく綺麗なので、前の住人の物だろう。


前の住人は魔術師にでもなりたかったのだろうか。

馬鹿らしいと、見たこともない住人を切り捨て、私は掃除を再開しようと紙をゴミ袋に捨てようとまるめた。



「痛っ」



紙をまるめた拍子に手を切ってしまった私は顔を歪める。

ついてないな。

紙をゴミ袋に投げいれながら、私は指をつまみ、圧迫した。


すると突然、視界に霧がかかったように白く霞んだ。

なにこれ、こんな少量で貧血?

私は頬を叩いて、意識を正常に戻そうと試みる。


しかし、視界の霞みは貧血ではなかったらしい。



「よう。呼ん……」



目の前に突然現れた黒ずくめの男が何かを言い終える前に、私は近くにあった畳を持ち上げ、振り下ろした。


バコッと鈍い音がして、腕にも衝撃の反動が伝わる。


どうやら効いたようだ。


私は念を入れて、もう4、5回畳を振り下ろし、様子を見ようと畳を置いた。


いつの間にか視界の靄は晴れている。


黒ずくめの男は鼻と頭をおさえてしゃがみ込み、こちらを涙目で見上げていた。



「テメエ。俺の高い鼻が縮んだらどうしてくれんだよ」

「やだ。まだ意識あるの?」



鼻血こそ出ているが、元気な男に、私は再び畳を持ち上げ振りかざした。



「おい!やめろって!」



男は慌てて、私から畳を奪いとり、そっと壁にたてかける。



「いい加減にしろよ、これ以上叩かれたら、怪我すんだろうが」

「そうね。貴方が意識を失ってる間に警察を呼んで、身柄を引き渡すつもりだったもの」

「アンタ。畳で叩いたのは、咄嗟の防衛反応じゃなくて、意図的な攻撃かよ。ヒデー女だな」



突然現れた、変質者に、"ヒデー女"呼ばわりされる筋合いはない。


失礼な男を、私は睨みつけ、鞄の中から携帯電話を取り出す。


ロックを解除し、110と打ち込んだ。