「一昨日の雨の日、迎えに来てたっていう男の人が、その、彼氏だって本当なんですか」

「…………」



来た。

不意打ちだ。


思わず黙ってしまった私に、三上君は「やっぱ、失礼でしたよね。すみません」と頭をさげる。


これは誤解したな。


立ち去ろうとする三上君を放っておいてもいいが、彼の中で噂が確信に変わり、それが広まって噂が大きくなるのは御免だ。

私は彼を引き止め、席に戻るように促す。


三上君は素直に座りなおした。



「そんなに噂になってるの?」



まさか、正直に『あれは、うっかり呼び出しちゃった悪魔なの』なんて言える訳がないので、

私は、まず噂の内容を確かめるべく、三上君に尋ねる。


内容に応じて、適当に説明しようと考えたのだ。


三上君によると、殆どの噂では、私を迎えに来た悪魔は彼氏だと思われているようだった。

しかし、変わった物では、悪魔が"執事"で、私が実はどこかの令嬢なのではないかという、笑ってしまうような噂もあった。



「何人かが、松永さんと男の人を見てるから、迎えが来たっていうのは事実なんでしょうけど。僕、なんかピンと来なくて」

「どうして?」

「だって、松永さんって、商談とか仕事のときは人付き合い良いですけど、プライベートは独りが好きというか、他人を寄せつけないじゃないですか」

「まあ、確かに」



よく分析してるな。
そのとおりだ。

私が相槌を打つと、三上君は少し目を泳がせて話を続けた。



「でも、今日ランチに誘ったら、松永さんは断りませんでしたよね。今までなら、こんなの絶対有り得ませんでした。

……だから僕。あの男が、松永さんの彼氏っていうのは本当かもしれないって思ったんです」



確かに今までなら断っていたはずだ。

三上君の言葉で、悪魔だけでなく、他人に対してもガードが緩くなっていたことを気付かされた私は黙り込む。


しかし物思いにふけってばかりもいられない。

悪魔とは決して付き合っている訳ではないし、三上君の誤解を解かなくては。