「ねえ、聞いた?松永さんの話」

「すごいイケメンだったらしいわよ」

「俺ら相手にされない訳だよな」

「見たかったなー」

「あの人、男嫌いじゃなかったんだな」



ついに噂が回ったか。

仕事が一段落して、給湯室に向かうと、そんな話し声が聞こえて、私はため息をついた。


鉢合わせると面倒だ。

問いただされることはないだろうけど、視線が刺さる。絶対。


私は、コーヒーを諦めデスクに戻る。

もうじき2時だから、社食も空いてくるし、それまで我慢しよう。


私は、さっき終わらせた仕事のファイルを開き、再確認をはじめる。

すると、横から声をかけられた。



「あの、松永さん」



三上君の声だ。

椅子を声の方に少し回転させ、彼を見上げる。

三上君は、財布を片手に微笑んだ。



「一緒にランチ行きませんか?」

「三上君もまだなの?いつもは早いのに」



私は内心、首を傾ける。

三上君は普段、部署内で比較的賑やかなグループに属し、彼らと早々と食堂に行っているイメージだった。

仕事が立て込んでいたのだろうか。


私は席を立って、貴重品だけをいれたハンドバッグを掴む。

調度、そろそろ食堂に行こうと思っていたところだ。



「いいわ。行きましょ」

「え、いいんですか?」



……そっちから誘ったくせに、なんなんだ。

私は、少し眉間に皺をよせる。


それに気づいた三上君は、慌てて釈明した。



「いや、いつ誘っても断られたんで、つい!すみません!」

「そうだった?」

「そうですよ。こんなの初めてです。あ、どこ行きます?希望あれば車出しますよ」

「あれ?外行くの?食堂じゃなくて?私、調度今から行こうと思ってたんだけど」

「……あ、そういうことでしたか」



私の言葉に、なぜか三上君は肩を落とした。

外に食べに行きたかったんだろうか。

我社の社食は、毎日変わる豊富なメニューが評判で、安くて美味しいのに。


生憎、私は食堂以外で外食する気はない。



「私に気にせず外行っておいでよ」

「あ、待ってください!別に外行きたかったわけじゃ!食堂でいいです!一緒に行きましょう!」



独り、食堂へと歩きだした私を、三上君は慌てて追い掛けて来たのだった。