「どう?快適?雨を避ける呪いをかけたから、濡れないだろ?あっ、やっぱ喋んないで。舌噛むから」



自分から聞いておいてなんなんだ。

私は開けようとした口をつぐむ。


そもそも、雨に濡れない術を人間にかけれるなら、もっと早くかけて欲しかった。


文句を言いたいが、舌を噛みそうなので、諦める。

それに、文句を言ったって悪魔には伝わらないだろう。

彼は雨の不快感を知らない。



「到着!」



アパートのベランダに悪魔が降り立った。


悪魔がどれくらいのスピードで飛ぶのかなど考えたこともなかったが、悪魔はとても速く飛ぶことが出来るようだ。


あっという間に、会社から4駅離れたアパートに到着した。



「ねえ、中から鍵かかってるわよ」



ベランダから中に入る鍵などない。なぜ、こっちに降ろしたのかと問えば、「こっちの方が降り立ちやすかったから」と、呑気に答えられた。



「心配ないって。ほら、今開けるからさ」



悪魔がガラスに手を伸ばす。

彼の手は、なんの違和感もなくガラスをすり抜け、窓の鍵を外した。



「泥棒し放題ね」

「なんだよ。引くなよ」

「引いてないわ。ただ、感心してるだけ。あ、タオル持ってきて」



私は濡れた靴下を脱いで、悪魔が持ってきてくれたタオルで足を拭き、部屋へとあがった。

靴を玄関に干して、凍えた身体を熱いシャワーで温めるを。



近頃、悪魔がおかしい。

シャワーを浴びながら考える。


バイトを始めたくらいから、おかしかったのだが、最近は、それに拍車をかけておかしい。

今日の行動で確信した。


ヤツは私に優し過ぎる。


自惚れた事を言ってるようだが、悪魔は料理や洗濯、皿洗いなどの家事をしたり、バイト代で土産を買ってきたり、何かと私を喜ばそうと画策している。


私が本を読み出せば、全く興味がないと言っていた読書まで一緒にする始末だ。

しかし、何か企みがあるという風でもない。



初めて会ったときから馴れ馴れしいヤツだったので、これが悪魔の素なのかもしれないが、私にはこの距離感がこそばゆかった。

普通なら不快感を感じる距離感だ。


今まで家族意外の他人と、ここまで親密になったことがあっただろうか。


仕方ないとはいえ、同じ部屋で暮らす内、私の悪魔に対してのガードは甘くなっているらしい。