夏真っ盛りの8月の末。


長年住んでいたアパートが取り壊されることになり、出ていくことをよぎなくされた私は、ダンボールを抱えて、せっせと新居へと運び込んでいた。



「……これで最後っと」



引越しとはいっても、ボロアパートから向かえのボロアパートに移動するだけだ。


業者を頼む必要もないと、私はひとりで引っ越しを決行した。

だが、やはり炎天下は堪えた。

たかだか20メートル程の往復とはいえ、それを8回もしたのだから汗だくだ。


私は開け放った窓から入る風にあたりながら、ペットボトルの水を飲み干し、気合いを入れ直す。



早いとこ掃除しないと。


新居は築38年の二階建て、全8室のアパートの2階の角部屋だ。


駅までは徒歩5分もかからない好立地ながら、入居者を常に募集しているのは、ボロ過ぎて長く住む人がいないからなのだと、不動産屋が言っていた。


私が入居を決めたときは、「本当にいいんですか?洗濯機も外ですよ」と、念を押された程だ。


だが、私はボロかろうが洗濯機がベランダにあろうが気にしない。


トイレと風呂がついていて、駅から近い。それだけで十分だ。他に何を望むというのだ。


見渡すほどの広さもない、6畳の和室を見ながら、頭にタオルを巻いて、マスクをつける。


明日は仕事だし、とっとと掃除を終わらしてしまおう。


まずは畳をあげるか。


私は畳の縁に指をかけると、ぐい、と持ち上げたのだった。