次の日から、私は斉藤さんと試合をするようになった。


沖田さんには普通に接しているつもりだった。


だが、試合に誘われた時だけ、何も返せない。


その度に、心の中が痛んだ。


沖田さんと、試合がしたい。


私は、斎藤さんに話すことにした。


沖田さんは、私の組の組長だ。


それに、何かから逃げたり、手加減されたら、逆に強くはなれない。


「斎藤さん!」


振り返った斎藤さんを見ても、苦しい。


ごめんなさい……。


「私、沖田さんと試合がしたいです。自分のためです」


「……俺は、いいとは思わない。だが、これ以上は言えない。これ以上、お前の思いを無視はしない」


斎藤さんは、そっと微笑んだ。


「その代わり、一本でもとって、怪我のないようにな」


私の頭に手を乗せて、誰にも見られないように腕を握ってきた。


「はい!」


私は、道場の隅に座る沖田さんの元に走る。


走るほど、私も嬉しいのだろうな。


自然と笑みがこぼれてしまう。


「沖田さん!」


「ん……何?あ……秋羽!」


ぼーっと返事を返した後、私の顔を見て満面の笑みを浮かべる沖田さん。


なんなのだろう。胸が少しざわついたのだ。


久しぶりに、真っ直ぐ向き合って、目が合う。それだけなのに、何も考えず接することができるのが、これだけ気持ちのいいことだとは思わなかった。


「沖田さん。私と試合してください」


「……」


俯いて顔が見えない。


だが、気まぐれで下を向いたのではないのだろう。


「よかった……」