総司は、満足そうな顔で、隊士達を見て、視線を移す。


表情は変わらず笑顔のままだ。


視線の先は、先ほど俺が見ていたのと同じ、部屋の中心の人物。


「はあっ!はっ!」


すごいな、いつまで続けているんだ。


竹刀が空を切る音が同じ秒ごとに、何度も止まることなく聞こえる。


もう、百を超えたところか?


隊士と同じように総司に稽古された後、へたれこむ隊士と対照的に、何事もないように一人で稽古を始める。


そいつが描く竹刀は綺麗に円を描いて振り下ろされる。


あまりに綺麗な構えと姿に、誰と構わず、目を向け始めた。


きっと、この中であいつの事を俺だけが違う目で見ている。


それは、この中で俺だけがあいつの秘密を知っているからだ。


そのことを考えると、今すぐ止めたくもなるが、あいつのそれなりの気持ちがあってのことだろうから、それはできない。


「ふぅっー……」


終わったか?


竹刀を止めたあいつに近寄ろうとするが、また竹刀を振り始める。


「……」


「とーきわっ!」


俺とは対照的に、竹刀を振っていても気にせず近づいて行く。


「沖田さん」


矢野は、竹刀を止めて、総司の方を向く。


池田屋の事件。


あれから二週間。矢野は強くなった。


誰よりも稽古をして、誰よりも時間を無駄にしなかった。


そんな姿を見て、誰もが矢野を認めていた。


総司もかなり気に入っているようだ。


「試合、しよっか?」


笑顔で首を傾げる総司。


嫌味なやつだな。まあ、矢野のためなんだろうが。


「お願いします」


真剣な表情のまま、矢野は位置について構える。