「違います……人の死を思い出しただけです……」


「秋羽…」


あまりに悲しそうな声に、なぜか抑えきれず振り返る。


すると、目の前にあったのは黒い壁。


いや、沖田さんの手だった。


「え……?」


「あ、……!なんでもない!ごめん」


咄嗟に手を引っ込めて、立ち上がる沖田さん。


顔を思いっきり逸らしたかと思うと、一度だけこっちを見て、あはは…とぎこちない笑みを浮かべて、足早に部屋を出て行った。


え……いや、は?


正直、意味がわからない。沖田さんの、暗い声からのあの変わりよう。


何だったのだ。


だが、沖田さんのせいで……というより、勝手に泣いておいて人に迷惑をかけるのは回避できた。


自分のことぐらい、自分でできなくてはだめなのだ。


この時代に来て、人を平気で斬るような人達と生きていかなければならない。


自分の命を守っていかなくてはいけない。


それはみんな同じなのに、私だけが足手まとい、お荷物は嫌だ。


誰かに、守られるのも嫌だ。


一人で生きていけるほどに強くならなくては。


絶対に、頼らず、守られず、自分一人でも生きぬける様になってやるのだ。


強く、もっと強く。


心も、力も、全て強くなってやる。


涙はもう絶対に流さない。


あの力を使うことになる前に、敵を全員倒す。


そうだ。私は、妖の子孫なんだ。


私は、私なら……


何でもできる!


何故が、その瞬間からなに一つとして気持ちが揺るがなくなった気がした。


胸の全てが一つとなって、すっきりしたはずなのに、この決心は、ただ私を重く引きずって行くだけだった。


そんな事を、思いもせず、私はただ自分の決心を信じていた。