しかし、彼等は気付いていない。
その無知が、自分達の立場を危うくしていることを。
いくらドーム全体がコンピューターで管理されているとはいえ、それを操作するのは人間。
それも一定階級より上の者が行っているのだから、最下層の者を邪魔と判断すれば制御を止めてしまうことも可能だ。
彼等がいなくなれば食料や水、その他の生活必需品の分配率が変化し、上の者達に多くの量を行き渡らせることができる。
それを行わず最下層の者にも配給しているのは、階級制度に縛られながらも同じ人間同士という感覚が残っているのと、上の者の慈悲が関係している。
正直、最下層は独特の場所といっていい。
その場に赴き目撃してはいないので多くの偏見が入り混じる考えになってしまうが、調査とはいえそのような所へじゃんけんで負けたら行けないといけない。
不安感がないといったら嘘になってしまい、できるものなら勝利したい。
ふと、すれ違った家政婦のことを思い出す。
家政婦は自分の階級より下の者から選び出すが、最下層の者が家政婦として雇われたという話を耳にしたことはない。
ただ知らないだけなのか、それとも本当にいないのか。
後者の場合、家政婦にするだけの価値もないということになる。
(どれほどの場所か……)
普通に生きていれば、一生縁のない世界。
一度や二度最下層のことを考えることもあるだろうが、其処で暮らしている者達に気を止めることはない。
そもそも一般人がする必要はなく、汚染管理や配給などを行なっているのはごく一部の者。
だから「どうでもいい」が、正しい答え。
無理矢理起こされたことにより眠気が吹き飛んでしまったので、シオンはベッドから起き上がり再び最下層について調べだす。
また同時に家政婦についても検索し、どのような人物が雇っているのか調べていく。
その間も、シトシトと雨は降り続きドーム内を煙らせていった。
◇◆◇◆◇◆
運命の日。
というのは大袈裟な言い方だが、最下層へ行くか行かないか決めるとなれば、大袈裟な表現の仕方になってしまう。
アイザックからは「いい休暇だったか?」と尋ねられるが、シオンの反応は悪い。
友人のいまいちの反応にアイザックは、いい休暇を過ごせなかったと判断するが、だからといって同情する様子はない。
それよりも彼等にとってはこれから待っている最下層行きのじゃんけんの勝敗の方が重要で、参加する者達は互いの出方を伺いそわそわとしている。


