敬意を示したくない一番の理由は、階級に甘んじ努力を怠っているということ。
上に立つに相応しい人物としての教養は乏しく、品性の欠片もない者もいるくらいだ。
そのような者達が上にいる時点で、人間の将来は暗い。最悪、浄化プロジェクトは永遠に成功しない。
しかし、何らかの突破口が見付かり、プロジェクトが成功し大気浄化に成功したらどうなるのか。
大地の浄化も終わった後、人間はドームの外に出て再び土の上で文明を築いていく。
それは大昔に人間が普通に行っていたことであり、これに関して何ら問題はない行為。
土の上で文明を築く過程で、ドーム内に蔓延している階級制度を引き摺っていくのか。
現在、ドームは階級によって暮らす場所が決まっている。
上の者が下に降り仕事をしているがその数は限られているので、互いに混じり合うわけではない。
だが、外界に出れば区切りはなくなる。
階級によって切り分けられていた者達が、互いに顔を付き合わせた時、果たして何が起こるのか。
一定の階級以上の者はそれが当たり前となっているので何も思わないだろうが、不自由な生活を強いられている最下層の者達は「当たり前」と思い、簡単に横に流せるものではない。
平和か。
安定か。
それとも――
遠い未来に訪れるであろう出来事を想像し、シオンは身震いしてしまう。
それはただの空想や妄想の類だが、だからといって現実に起こりえない理由にはならない。
人類はこのまま閉鎖された空間の中で生き続けるのが、本当の幸せではないだろうか。
そう、シオンは思う。
柄にもない真面目な考えに、シオンは苦笑する。
それだけの理想と理念を持っているというのなら、ネット上に意見を配信して同士を集めるのもいいだろうが、それなりのリスクも背負い込まないといけない。
だからといって現在の地位と職業を捨てるほど、行動力はない。
彼と同等の考えを持つ者は、アイザックだけではなく複数ドームの中にいるだろう。
その者達もリスクを恐れ、内に抱いている階級への不満を口に出して言うことはできない。
ただ唯一それができるのは、最下層の人間くらいだろう。
現に、苦情を言って調査を求めてきた。
「だから……か」
通常、上の者に対し苦情は言い難いものだが、最下層というそれ以上下がない場所で生きているが故、恐れを知らない。
また、最下層の者は勉学に熱心に励む者は殆んどいないので、高い知識を身に付けていない。
結果的に感情論で動き、上に苦情を平気で言ってくる。


