二度とこのような目に遭わないように、数ヶ月ストックできる物も購入しておこうと思う。
流石に空腹ほど辛いものはなく、頭の中に美味しそうな食べ物が浮かんでは消えていく。
幸いこれが幻想だと認識できていたが、長く空腹が続いているので現実と幻想の区別が危うくなってくる。
(ああ、ひもじい)
栄養不足の為に脚を進めるのも一苦労だが、やっと目的の店に到着する。
すると空腹の影響なのか予定外の買い物までしてしまい、想像以上の出費に今度は頭を抱え悩みだす始末。
空腹の時に、店に行くな。
という言葉が昔から存在するが、まさにその言葉が今のシオンに必要なものだった。
この状況をアイザックが目撃していたら、何と言われるか。
笑われるか呆れられるかのどちらかで、シオンは計画性があるようで無かった自分の意外な一面に、驚きと後悔でいっぱいだった。
しかし買った物を返品するわけにはいかないので、購入した物全てをシオン一人で処分しないといけない。
それでも一人で処分するには限度があるので、アイザックに一部手伝って貰おうかと考えるが、これらの物を研究所に持って行くのは憚れるので、やはり一人で処分するしかなかった。
このような時、掃除洗濯・家事全般を任せられる家政婦がいれば、このように無駄な買い物をしないで済むだろうが、申請したところで許可が下りるとは思えない。
ドーム内での職業の中で、科学者は決して悪い職業ではない。
寧ろ好条件の職業で、これになりたいと勉強に励む者も多い。
だが、シオンは多くの部下を統率する立場ではなく、ごく普通の科学者。
科学者なので学歴はいいが、給料面を考えると聊か不安が残る。
だからといって決して悪いわけではなく、普通以上の給料を得ている。
それでも何か足りないのではないかと、シオンは不安視する。
(食ってから、考えるか)
家政婦についてあれこれと考えていてもいいが、その前に空腹を満たさないといけない。
シオンは重い袋を持ち直すと、もと来た道を辿っていく。
そして自宅に戻ると空腹を満たすかのように次々と食べ物を胃袋の中に納め、食後は熱々のコーヒーと共に満腹感に浸った。
昼を回った頃、予定通りドーム内に人工の雨が降り注ぐ。
それに伴い天井に投影されている画像も変更したのだろう、どんよりとした鉛色の雲が覆いつくす。
また雨の日を忠実に再現する為に明かりも調節したのだろう、全体的に薄暗くどこか物悲しさを演出していた。


