現在、シオンが暮らしている階層の法の下に統治されているので治安は安定している。
しかし最下層の治安は、きちんと取り締まる人物がいないので不安定といっていい。
そのような状況の中に一人で調査に赴かないといけないのは、無謀というより馬鹿といった方が正しい。
外界と最下層、どちらが安全なのかと問われたらシオンは回答し難い。
どちらにもいい面と悪い面が存在し、比べることはできない。
だが、最下層の唯一のいい面は相手が人間ということ。
上部の人間にいい印象を抱いていないとはいえ、言葉が通じない自然よりいい。
検索に伴い、次々と画面に表示されていく最下層のデータ。
書かれている内容の大半が悪い印象を強めていくもので、読めば読むほど気分が重くなっていく。
じゃんけんで負ければ、最下層への調査命令が下される。
外界の時と同じく見返りを求めたいが、流石に無理と判断する。
今回の調査は、最下層の住人からの苦情が発端。
上の者は渋々というか面倒というか、殆んど仕方なく調査を決定したのだろう。
浄化プロジェクトに通じる外界の調査と違い、嫌々行なわれる調査。
見返りを求めたところで上の者の機嫌を損ねてしまうと、シオンは考える。
(見返りを求めると、最下層へ行くことを嫌がっている時点で、俺もあいつ等と一緒か……)
自分は階級に執着している者と違うと自負していても、隠し切れないのが心の奥底に隠れている本音。
今いる階層に満足し、その下で暮らしている者達に目を向けようとはしない。
最悪、その存在自体を忘れ去ろうとしているのだから、彼等の苦情を鬱陶しいと受け取る。
だからといって、シオンは聖人君子ではない。
全ての人間に愛情を注げるだけの余裕はなく、今の生活でいっぱいいっぱい。
最下層への調査が下の者に目を向けるいい切っ掛けとなればいいと思うが、やはりじゃんけんに負けたくない気持ちを拭いきれるものではない。
何かを吹っ切るかのように大声を出すと、シオンは表示されているデータを消しパソコンの電源を落とす。
そして落ち込んだ気分の復活と体力回復を図る為に、熱いシャワーを浴びに浴槽に向かった。
◇◆◇◆◇◆
翌日、夢ひとつ見ない熟睡から目覚めたシオンは、時刻を確認しようと手探りで携帯電話を探す。
置かれていたのはで枕の右横で、それを手に取り時刻を確認すると6時を少し回った程度だった。
いつものであったら仕事へ行く支度を行うが、今日一日休みなのでそのままベッドで横になっている。


