この場所に連れて来てくれたことは嬉しい。
しかし同時に、想いを強くしてしまう。
はじめて体験する心を抉り取られるかのような感情に、クローリアの思考は混乱してしまう。
暫し茫然と立ち尽くしていると、後方の扉が開く。
すると、目の前にシオンが立ち尽くしていた。
「……シオン様」
「うん?」
「お、お早い……」
「止めた。途中まで行ったけど捕まって、あれこれと煩く質問され……面倒になってしまった」
「……そうでしたか」
「後でメイドに頼んで、何か用意して貰う。パーティーの食事を食べることはできないけど……」
「い、いえ」
「あれはあれで、美味しかったりする。またこのような機会があったら、その時に食べるといい」
残念に思っているシオンに、クローリアは何度も頭を振る。
自分は家政婦なので、多くを望んではいけない。
シオンが与えてくれるモノを素直に受け取り、懸命に仕事をこなしていく。
と、語る。
生真面目なクローリアにシオンは苦笑すると、彼女の目の前に利き手を差し出す。
突然のシオンの行動にクローリアは首を傾げ、どのような意味で差し出しているのか尋ねる。
彼女からの質問にシオンは何を思ったのか彼女の前で跪くと、クローリアをお姫様のように扱う。
「シ、シオン様!」
「嫌だ?」
「そ、そのようなことは……」
「女性ってこういうのが好きって、アイが言っていた。お姫様のようになりたい……が、憧れ」
「……はい」
「だから、やってみた」
まさかこのようなことをされるとは思ってもみなかったのだろう、クローリアの緊張が頂点に達してしまう。
そして糸が切れた人形のように崩れ落ちるが、寸前でシオンに救い出される。
身体が密着することによって嫌でも感じるのが相手の体温と心音で、クローリアの顔を紅潮させた。


