外界の大気調査は行われているが、最下層の大気調査は珍しい――というか殆んど行われていない。
最下層で暮らしている人間は普通の人間ではないという感覚が調査を行わない理由だが、今頃になってどうして調査が行われるのか。
何か特別な事情があるのかと、アイザックに尋ねる。
『詳しくはわからないが……何でも、最下層の者から苦情が来ているらしい。で、渋々と――』
「定期的に調査すれば、こんなことにはならない。外界へ赴くように、面倒だったんだろう」
『また、荒れるな』
「で、今回はどんな方法で決める?」
『恨みっこなしのじゃんけん』
「まあ、それが無難か」
今回の外界への調査はシオンが休日を勝ち取りたい名目で名乗り出たが、普段は互いに押し付けあっている。
それでは決まらないと、じゃんけんや籤引きなど公平性が保たれる方法を用いる。
「無難」と言い方法に納得するシオンだが、最近のついていない現状にこのじゃんけんの勝敗について悩みだす。
負けるのではないかと勝敗を恐れるシオンだが、階級が階級なので逃げ出すことはできない。
また、参加しなければ後で何を言われるかわかったものではない。
「……アイ」
『どうした?』
「俺、負けるかも」
『うん? 負ける?』
「最近、ついていないだろう。だから、じゃんけんに負けて最下層へ……まあ、外界よりはいいけど。そんなことより、今回の調査は一人じゃないだろう? 誰か、同行がいるとか……」
『いや、一人』
「どうして、いつも一人だ」
『僕に怒っても……』
「わ、悪い」
『まあ、気持ちはわからなくもない。一人で行くのは寂しいというか心細いというか、話し相手が欲しい』
多くのデータを集めたいというのなら複数で赴いた方がいいのだが、外界を含め大気汚染が著しい場所に訪れることを極端に拒む者が多い。
結果、じゃんけんや籤引きの敗者一名がその場所へ赴きデータ収集を行なわないといけないという、悲惨な状況に追い込まれる。


