クローリアの周囲に存在しているのは、映像が投影されているだけの偽物。

 しかし左右に揺れている草花を見ていると、これらが本物ではないかと思えてくる。

 クローリアは多くの花々の前に向かうと、その場で一回転。

 それと同時に、着ているドレスの裾が舞い上がる。

 いつか、この世界に――

 ふと、クローリアは考える。

 本物の自然を取り戻すことができたら、外の世界を満喫したい。

 そしてシオンと約束した通り、お弁当持参で一緒に出掛けたい。

 それが彼女の願いだったが、そのことを思えば思うほど心がきつく締め付けられる。

 勿論、クローリアはどうしてそのようになってしまうのか、理解していた。

 だけど――

 それ以上は、口に出せない。

 今、アムルの養女になっているのでA階級の人間だが、元は最下層の人間。

 片やシオンは普段はB階級として生きているが、本当は統治者一族の人間。

 そして将来、三大一族のひとつ〈セレイド家〉の跡を継がないといけない。

 明確な差は、二人の間に巨大な壁を作る。

(シオン様は……)

 一人息子とで尚且つ跡継ぎなので、いずれこの場所に帰って来ないといけない。

 いつまでシオンが科学者として生活しているのかわからないが、統治者の人間として本格的に元の世界に戻ると言った時、自分はどうなってしまうのだろうと、クローリアは不安を覚える。

 家政婦として、一緒に行くのか。

 それとも、契約解約か。

 できれば一緒に連れて行って欲しいとクローリアは願うが、シオンに我儘を言うことはできない。

 思えば思うほど、心が痛む。

 そして、眼元に涙が滲み出る。

(いつか……)

 クローリアはその場に座り込むと、これから先自分がどなってしまうのか考えるが、考えれば考えるほど、悪い方向に思考が向いてしまう。

 シオンに出会ったことにより最下層から出ることができ、別の世界を見ることができた。

 しかし別れてしまえば、最下層に戻らないといけない。

 文明や文化が発展している世界から、去りたくない――というわけではなく、クローリアの本音はシオンと別れたくなかった。

 今の生活は楽しくて面白くて、全てが新鮮といっていい。

 それが彼女の強い希望であったが、それを面と向かって言えないのが、彼女の繊細な心が関係している。