アメット


 クローリアにとってシオンは、特別な存在。

 だからシオンに頭を撫でられたことによって、このように過敏に反応を示してしまう。

 オドオドしているクローリアに再度謝ると、いいことを思い出したのだろう、シオンは間延びした声音を発すると、ある方向を指で示す。

「面白いというか、クローリアが興味を示す物があるんだ。気に入ってくれたら、いいけど」

「どのような物ですか?」

「説明するより、見た方が早い」

 一体どのような物かわからないクローリアは首を傾げるが、自分が興味を持つことができる代物――と聞いたからには、行かないわけにはいかない。

 コクコクと首を縦に振るクローリアを連れシオンが向かったのは、とある一室。

 必要最低限の物しか置かれていないその部屋は、薄暗い。

「この部屋は……」

「父さんのお気に入り……というか、俺も気に入っている。今、この部屋にしか存在しない」

 そう言いつつ、シオンは部屋の中心部分に置かれている機械を弄る。

 これは映像を投影する機械なのだろう、一瞬にして室内の雰囲気が一変する。

 刹那、信じ難い映像にクローリアは息を呑む。

「これは……」

「汚染される前の世界」

「……綺麗」

 クローリアの周囲に投影されたのは、現在失われた過去の世界。

 揺らめく木々は木漏れ日を大地に降り注ぎ、色とりどりの花々は目を楽しませる。

 何より、一番美しかったのは透き通るほどの青。

 これこそが、多くの人間が待ち望んでいる「青空」というものであった。

 無意識に足元で咲き乱れている花に触れてみるが、これは現実ではないので空しく手が通り抜ける。

 何もせず立ち尽くしていれば、これが現実と見間違えるかもしれない。

 しかし触れた瞬間現実ではなく偽物と判明し、浄化プロジェクトが進行していないことを知らされる。

「気に入って……くれたかな」

「はい!」

「……良かった」

 クローリアが気に入ってくれたことにシオンは安堵の表情を浮かべると、再び機械を弄りだす。

 次に部屋の中に投影されたのは別の風景で、機械があった場所には一本の巨木が現れる。

 シオンは木陰に胡坐をかくように腰掛けると、手招きし自分の横に座るようにクローリアを誘う。