「俺も、アムルを信頼している。その信頼している人物の娘……彼女を家政婦にして、悪いか?」
「そのようなことは、言っていない」
「お前の口調だ、いつも……」
「つれない奴だ」
「……誰が悪い」
最後に発した言葉は、囁く程度の声音。
しかしクローリアの耳には届いたらしく、両者の関係がギクシャクしているというより、関係が悪いと気付く。
シオンは嘆息すると、どうしてクローリアを一緒に連れているのか、その理由を低音の声音でアークに説明していく。
異性がいれば、異性に声を掛けられない。
シオンらしい理由に、アークは苦笑する。
「来る者を拒むか」
「性格による」
「嫌いか」
「お前のように、器は大きくない」
パーティーに参加する玉の輿狙いの女に比べたら、日々懸命に生きているクローリアの方が何倍もいい。
それにこのような華やかな場所に参加するより、アイザックと馬鹿騒ぎをシオンは選択する。
シオンの機嫌が悪くなってきていることに雰囲気で気付いたクローリアは、無意識に彼の服を掴んでしまう。
服が掴まれていることにシオンはクローリアに視線を向けると「行こうか」と、提案する。
「おい」
「何?」
「無視か」
「お前は、お前を待っている者のもとへ行けばいい。あのように、熱い視線を送られているじゃないか」
その言葉に誘われるかのようにアークは周囲に視線を向けると、数人の若い女達が視線を向けている。
するとアークと視線が合った瞬間、黄色い悲鳴を上げ盛り上がり出す。
中には桃色に近いオーラを放ちながら、必死に自分という存在をアピールしている者までいた。
「……仲良く」
そう言い残すと、シオンはクローリアの手を握り連れて行く。
突然手を握られたことにクローリアは何も言うことはできず、ただ引っ張って行かれるのだけ。
二人が立ち去ったと同時に周囲にいた女達は一斉にアークのもとへ駆け寄り、それぞれが焼けるほどの情熱をぶつける。


