「それと……」
ふと、途中で言葉が止まる。
これから先を口に出すのはこそばゆいのだろう、シオンは言葉を発するのを躊躇う。
また照れているのか、クローリアから視線を知らしつつ、途中で止めてしまった言葉の先を言う。
美しく化粧され、結い上げられた髪。
おめかしした姿を見ていると、クローリアが最下層の人間とは見えなかった。
黙って立っていれば、上部の階級の人間と見間違うほどだという。
「シ、シオン様」
「そういうことだから、自身を持つ」
「はい」
シオンに言われたことが余程嬉しかったのだろう、クローリアは満面の笑みを浮かべる。
彼女の笑顔にシオンは人差し指で頬を掻くと、パーティーに誘うように反対の手を差し出す。
「行こう」
その言葉と共に、二人は会場に向かう。
華やか。
だけど、空気が重い。
それが、クローリアの第一印象。
パーティー嫌いのシオンの登場に周囲は騒めくが、それ以上に若い女性を連れていることに誰もが小声で囁き合う。
周囲の囁きを聞きつけたのかアークがシオンのもとへ歩み寄ると、どうして若い女性を連れているのか、どのような関係の人物なのか――と、あれこれと質問してくる。
「家政婦だ」
「家政婦?」
「いけないか?」
「家政婦が、パーティーに……」
「アムルの娘だ」
「なるほど」
「俺が頼んだ」
グレイの側にいるアムルの存在は他の一族も有名なので、アークは特に説明をしなくても理解する。
そして、アムルはグレイから絶大なる信頼を得ているので、その関係で娘がシオンの家政婦となった。
勿論、クローリアが娘というのは偽りだが、特に怪しまれずにアークは信じる。


