アメット


 しかしそのように説明されても、すぐに適応できるものではない。

 クローリアは用意された食事が喉を通らないらしく、手を付けない。

 何も食べないクローリアにシオンは「別の料理を用意しようか?」と聞くが、クローリアは頭を振り、どうして食べることができないのか話す。

「誘って、悪かった」

「いえ、そのようなことは……」

「シオンと一緒の方がいいか」

「わ、私は……」

 突然「シオン」と名前を上げられたことに、クローリアは動揺を隠せないでいた。

 クローリアの素直な反応にグレイは笑うと「邪魔者は退散した方がいいか」と、冗談を言いだす。

 父親の言葉にシオンは間髪いれずに言葉を返すと、其方が夕食に呼んだのではないかと言う。

「ああ、そうだった」

「……父さん」

「仲がいいと思って」

「家政婦を大切にしろと言ったのは、父さんじゃないか。それに、最下層の話を聞きたいって……」

 息子の話に最初は笑っていたグレイだが「最下層」という単語を聞いた瞬間、表情が一変する。

 統治者として最下層を気に掛けないといけないのだが、いかんせんグレイは一度も言ったことがない。

 以前シオンから話を聞いた程度で、詳しいことは知らない。

 だが、今最下層の住人であるクローリアが目の前がいる。

 グレイはクローリアを見据えると、説明を求める。

「な、何と……」

「暮らしぶりでいい」

「私は、お店で働いていました。売っている物は皆、古着だったりしまして……新しい物は……」

 と、自分の生活スタイルを語る。

 その間、グレイは喋ることなく聞き続け、シオンも同じように聞き続ける。

 最初は戸惑いながら話していたクローリアだったが、自分が暮らしている世界を知って欲しいと思ったのだろう、徐々に話に熱が籠る。

 上の階層へ行きません。

 その言葉に、グレイの表情が歪む。最下層の住人が上部へ来られないようにしていることは、勿論知っている。

 このような差別をしてはいけないと認識しているが、他の二つの統治者一族がその意見を認めようとはしない。

 それどころか「閉じ込めておいた方がいい」と、言う始末。