クローリアの為――
シオンの口からそのように発せられた瞬間、クローリアは自分自身の心臓が力強く鼓動したことに気付く。
一方、クローリアの気持ちに気付いていないシオンは、柔和な表情を浮かべている。
「そうだ! 今日、一緒に夕食を食べない? 父さんも顔を見たがっているし、話も聞きたいって」
「お、誘いでしたら……」
「時間になったら、部屋まで迎えに行く。それまでの間、メイドに頼んでドレスを選ぶといい」
「ご迷惑でなければ、ご一緒に……」
「遠慮しておく」
「ど、どうして……」
「異性の着替えを見るわけにはいかない」
「そ、そうでした」
自分がとんでもないことをお願いしてしまったことに気付いたクローリアは、徐々に顔を紅潮させていく。
彼女のわかり易い反応にシオンはクスっと笑うと、メイドを呼びに行くと言い退室する。
そして一人になったクローリアはベッドに腰掛けると、メイドの到着を待つ。
ドレスは、どのような物か。
自分に似合うのか。
様々な思いを浮かべながら――
その夜。
クローリアは、別の意味で緊張する。
自身の目の前にいるのはシオンの父親グレイで、現在ドームを統治している人物。
アムルの養女となったとはいえ、クローリアは最下層の住人。
天と地と呼べる階級の差に、圧倒されてしまう。
委縮しているクローリアにグレイは表情を綻ばすと、いいドレスを選べたか尋ねる。
「は、はい」
「それは良かった」
「あのような素敵なドレスを……」
相当緊張しているのだろう、言葉の端々が震えている。
シオンと違い、グレイは独特の威圧感があるのだろう、なかなか視線を合わすことができない。
クローリアは俯き懸命に言葉を発する姿に、シオンは父親は他の統治者と違い、威張り散らしたりする人物ではないと説明する。


