アメット


「今から貴女は、私の義娘です」

「は、はい」

 本当は「お義父さん」と呼ぶべきだろうが、瞬時に現在の状況に慣れることはできないので、呼ぶに呼べない。

 緊張が続くクローリアは、アムルと視線を合わすことができないのだろう、空中に漂わす。

 その姿にアムルはクスっと笑うと、親子関係になるのだから変に緊張しない方がいいと伝える。

「……はい。お、お義父さん」

 やっとの思いで口に出したのは、アムルを「義父」というもの。

 クローリアから「お義父さん」と呼ばれたことが心に響いたのか、アムルの身体が硬直する。

 妻子がいない彼にとって「お義父さん」と呼ばれたのは、これがはじめて。

 新鮮な響きに、アムルは礼を言う。

「お礼は、私の方です」

「いや、そのようなことはない。このような素晴らしい切っ掛けを、与えてくれたのだから……」

 二人の間に漂うのは、ほのぼのとした雰囲気。

 するとそのほのぼのとした雰囲気を遮ったのは、ドアを叩く音。

 ドアを叩いたのはシオンで、入室と同時に互いに向き合って会話をしているクローリアとアムルの存在に気付く。

 シオンは反射的に「邪魔だった?」と聞くと、気まずい表情を作る。

「いえ、そのようなことは……」

「養女の件?」

「そうです」

「アムルがクローリアの義父になってくれるのなら、安心だよ。アムルはいい人で、頼りになる」

「買い被りすぎです」

「父さんも、信頼している」

「有難うございます」

 主人だけではなく、その息子のシオンにまで褒められることに、アムルは照れ隠しをする。

 自分は自分の役割を果たしているだけ――と言うが、それによって助かるのは間違いない。

 そう語るシオンに対し、アムルは「これ以上は、言わないで下さい」と、珍しく動揺する」

「本当だよ」

「シ、シオン様」

 褒められているのはわかっていたが、アムルにとっては言葉のひとつひとつがこそばゆい。

 これ以上は無理と判断したのか、アムルはシオンに向かって頭を垂れると、退室してしまう。

 見慣れない行動にシオンは表情を綻ばすと「本当のことを言ったのに」と、笑いだす。