これから、ドームの中に「夜」という時間帯が訪れる。
太古の時代、世界を覆う闇に人間は恐れ戦いた。
また身体を休め、明日への英気を養う時間でもあった。
しかし科学の力によって闇を恐れなくていい時代になった今、人間にとって夜は最高の時間を齎してくれる。
夜のドーム内は煌びやかな色彩が溢れ、日中とは違う顔を覗かせる。
同時に煌びやかな色彩は人間が内に隠している一面を暴き、彼等を違う人間と変化さ気持ちを増徴させていく。
さあ、何処かへ行こう。
酒でも飲みますか。
車内で語られる言葉は、これから楽しい場所へ行こうというもの。
彼等に釣られシオンも何処かへ繰り出してもいいが、外界へ赴いた疲れが影響しそのような気分は湧いてこない。
どちらかといえば、早く帰宅しのんびりと寛ぎたい。
いや、その前に熱いシャワーを浴びたい。
シオンはそれらの内容を思い浮かべつつ、早く目的の駅に到着しないか静かに待つ。
◇◆◇◆◇◆
シオンが暮らしているのは、住宅街の一角に建つ高層マンションの最上階。
いつものように電子ロックを解除し中に入ると、キッチンの側に設置されている冷蔵庫から飲み物を取り出す。
それを一気に飲み干し空になったペットボトルをゴミ箱に捨てると、寝室へ向かった。
高層マンションの最上階ということもあって、自分が暮らしている階層の大半を眺めることができる最高の場所だが、シオンはその点を重視してこの部屋を購入したわけではない。
彼にとって重要なのは外界の恐怖に晒されず、安心して身を休める場所が確保されているということで、美しい風景など二の次。
また、給料に影響が出ない範囲で購入できるマンションを探していた時、たまたまこの部屋が空室だと管理会社から聞き付け、購入したまでのこと。
現に寝室の窓にはカーテンが半分引かれ、美しい風景を覆い隠していた。
それに週の大半を研究所で過ごしているので、シオンにとってこのマンションは寝に帰る場所といっていい。
シオンは纏っていた上着をベッドの上に脱ぎ捨て鞄を置くと、椅子に腰を下ろす。
そして目の前に置かれているパソコンを起動させ、明日のドーム内の天候情報を調べる。
天候データに表示されているのは、晴れマークと傘マーク。
朝のうち晴れで、昼から雨が降るというものだ。


