「……そうか」
「今日は、有難う」
「礼はいい」
「彼女は、喜んでいた」
「確か、最下層の住人と言っていたな」
「前に話した、調査の時に出会った……」
「それが縁で雇ったのか」
「そう」
グレイは、息子はどの階層の住人を雇ったのか、気にすることはない。
それどころか相手を無碍に扱っていないか、其方を心配する。
父親の指摘にシオンは「勿論、大事にしている」と言い返すが、本当に大事にしているのか不安になったのだろう、反射的に視線を逸らす。
「扱ったのか?」
「そ、そんなことは……」
「お前が、そのようなことをするとは思っていない。あのように、パーティーに連れて来ているのだから」
「経験したことのない世界を経験させたく……」
「その優しさを忘れてはいけない」
「勿論」
「しかし、女を連れて来るとは……」
父親の意味深い言い方が理解できないのか、シオンは首を傾げてしまう。
その反応にグレイはクスっと笑うと、いい意味で成長してくれたことを喜ぶ。
グレイは息子が科学者として仕事に集中することは構わないが、結婚年齢に達している年齢を考えて欲しいというのが本音。
現に以前のパーティーでは、多くの異性に取り囲まれていた。
その取り囲みの一番の原因は、いまだに特定の異性がいないからだ。
異性に興味がないというわけではなく、彼女達の迫力に辟易しているということはグレイも知っているが、いい加減そろそろ――と、願ってしまう。
そして今日、シオンが異性を連れて来た。
しかしグレイは、いい面より悪い面の方を心配してしまう。
「どうするんだ」
「何を?」
パーティーの参加者の面子を考えると、クローリアを家政婦として連れて行くのは憚れる。といって彼女と紹介すれば、後々面倒が生じる。
特にシオンに好意を示している面々から、どのような攻撃を仕掛けられるかわかったものではない。
下手すれば、血を見てしまう。


