アメット


 クローリアの言葉に、シオンは肩を竦める。


 といって、無理に菓子を食べさせるわけにはいかないので、シオンはクローリアに紅茶が注がれたカップを渡すと、自分でクッキーを食べはじめる。

 互いにどのような言葉を掛けていいのかわからないらしく、長い沈黙が続く。

 そしてシオンが全てのクッキーを食べ終えた頃、沈黙に耐え切れなくなったシオンがテレビの電源を入れる。

 画面に映し出されたのは可愛らしい動物の絵で、その絵を見た瞬間クローリアの表情が緩む。

 彼女の笑顔にシオンも表情を綻ばせると「可愛い笑顔だね」と言い、クローリアを驚かす。

「シ、シオン様」

「何?」

「その……」

「笑顔?」

「……はい」

「あれは、本当だよ」

「……シオン様」

「固い表情は、似合わない」

 まさかこのようなことを言われると思わなかったのだろう、クローリアの顔は見る見るうちに紅潮していく。

 また、シオンの顔を見ることが恥ずかしいのだろう、俯いて身体を硬直させている。

 初々しいクローリアの態度にシオンは声を上げて笑うと、紅茶を口に含んだ。




 その夜、クローリアは毛布に包まりつつベッドに横たわりながら、今日の出来事について考えていく。

 一番の衝撃はシオンが統治者一族の者。そして、統治者が主催するパーティーに誘われている。

 五日に答えを出さないといけないと言われているが、クローリアの混乱は続く。

 本音は、一緒に行ってみたい。

 その反面、自分の階級が気に掛かる。

 二つの相反する思いがごちゃ混ぜになってしまい、いまだに正しい答えを出すことができない。

(統治者様って、何処で暮らしているのかしら)

 ふと、その点が疑問になる。

 最下層で暮らしていた時、上部の世界に憧れていた。

 最下層と違って華やかで賑やかで――実際に上部の世界に来てみると、想像していた通りの世界が広がっていた。

 それなら統治者が暮らす世界は、どのような世界なのだろうか――と、クローリアは想像を巡らしていく。