しかし現在の階級なら下部へ自由に行くことが可能だが、外界へ赴くのと同じで誰も好き好んで行こうとはしない。
何故なら、このドームは下部へ行けば行くほど環境が悪化していく。
全ての面で一定の環境が整っているわけではなく、人間が普通に暮らせるのはシオンがいる階層まで。
その下の階層はドーム内の大気に澱みが生じ、特に階級が一番下の者が暮らしている階層は外界の劣悪な環境よりは遥かにマシだが、人間が正常に暮らせる世界ではない。
全ての人間が平等に――
というのが環境維持のスローガンだが、結局は階級が支配している。
結果、人間らしい生活を送れるのは一部の者で、それ以外の者は身体を害しながらそれを上の者にも言うことができず生活している。
「どんな生活をしているのかな」
「きっと、優雅で豪華なんでしょう。お金持ちが沢山集まっていると、聞いたことがあるわ」
「体験したい」
「だから、無理だって」
今も、三人の男女のやり取りが続いている。
勿論、シオンは彼等の気持ちはわからなくもないが、所詮夢は夢。
彼等のようにドームの上部へ行くことに憧れを抱いている若者は多いが、階級によって縛られている今、語られる言葉が現実になることは決してあり得ない。
その反面、ドームの上部へ行くのは意外にも簡単。
ドームの中心部に聳え立つ塔のような形をしている建物の中に設置されているエレベーターを使用すれば、上部へ行くことが可能だ。
だが、そのエレベーターは厳重に管理されているので、不用意に近付けば捕まってしまう。
これを唯一使用できるのは、この階層で仕事を行なっている階級が上の者。
エレベーターに乗り上部へ行くことへの優越感に浸れる場所であり、下の者を見下すいい道具と化している。
馬鹿馬鹿しい。
そう言えればどんなに楽だろうが、エレベーターに乗れる乗れないで決定的に見せ付けられる階級の差。
シオンやアイザックのように不満を漏らす者もいるが、大半が当たり前と受け入れている。
現に男女三人も「羨ましい」と言っても、会話に愚痴は混じっていない。
それは、現在の階級に満足しているからだろう。
下部のようにコンピューター制御が上手くいかず環境が悪化しているわけではなく、衣料品は普通に手に入れることができる。
また、娯楽や仕事面も充実している。
そして彼等の精神面の安定を図っているのは、下部の人間の存在。


