ご苦労なことで――
シオンは、心の中で呟く。
心を掴みたいというのなら付け焼刃ではなく、前々から下の者達に心配りをしていればいい。
しかしそれができないのが、統治者としての醜いプライドか。
そのような真相を知らないからこそ、アークの登場に多くの者達が恭しい態度を取り、ご機嫌伺いにおべっかを使う。
「で、別の仕事とは?」
「種の改良です」
「改良?」
アイザックの説明に引っ掛かったのか、アークが食い付いてくる。
彼の反応に、食い付いて欲しくないところに食い付いたとシオンは顔を引き攣らせるが、正体が判明してはいけないと沈黙を続ける。
一方、アイザックはアークに仕事の詳細と理由を丁寧に話していく。
「なるほど」
「何か、問題でも……」
「いや、立派な考えだ」
アークもこの計画の裏にシオンの父親の意向が隠されていると見抜いたのだろう、言葉では褒め称えていても表情が伴わない。
裏の感情を唯一見抜いたシオンだが、やはり言葉に出さない。
悔しい。
先を越された。
何故、クレイド家だけ目立つ。
どうして、優遇される。
様々な思惑が入り混じるのか、アークはフンっと鼻を鳴らす。
一瞬クレイド家に対しての愚痴をこぼそうとしたが、それを今言うことは自分の印象を悪くすると判断したのだろう、自分もそのように未来に向けて何かを残せることをしてみたいと、心にもない言葉を言い放つ。
「それは、ご立派です」
「将来、アンバード家を継ぐからね」
「他の跡継ぎの方も、そうなのでしょうか?」
「あいつ等か……」
「跡継ぎは、いらっしゃるのですか?」
一人の科学者が何気なく発した言葉によって、周囲の空気が一変する。
今の言葉で何か重大なことを思い出したのだろう、アークは盛大な溜息を付くと、気に入らないというか馬が合わない跡継ぎが一人いることを話し出す。
そう、その人物こそシオンのことを示している。


