「了解」
「有難う」
「しかし――」
「何?」
「こう短期間に、統治者二名に会うとは……」
「アークは、特別だよ。あいつの場合は、突然やって来たという感じだし。先が読めないよ」
シオンの本音にアイザックは噴き出してしまうが、いつまでも笑ってはいられない。
何故なら横を歩いていたシオンが発している雰囲気が一変し、また複数の人間が目の前からやって来る。
シオンの雰囲気からこの中に例の「アーク」がいると察したアイザックは、表情を強張らせる。
「おや」
何か引っ掛かる部分があったのか、アークの足が止まる。
そしてシオンとアイザックに視線を向けると、この研究所で働いている者か尋ねて来る。
アークからの質問にアイザックは頭を振ると、自分達は浄化プロジェクトに参加している者で、今日は別の仕事で来たと話す。
「ああ、あれか」
「ご存知ですか」
「有名なプロジェクトだ」
そのように語るが、アークは何処か歯切れが悪い。
このプロジェクト自体に何か気に入らないことがあるのか、シオンは微かな表情の変化を見逃さない。
シオンは心の中でクスっと笑うと、アークに気付かれないように恭しい態度と敬語を用いて、この場所に来ている理由を聞く。
「視察だ」
「視察……ですか」
「時に、下々の生活を見ようと」
「それは、素晴らしいことです」
「統治者たる者、当たり前だ」
そのように言った瞬間、アークの顔が綻ぶ。
やはりシオンが言ったように、アークは持ち上げれば気分が良くなるらしく、話し掛けて来る人物が同じ統治者の者と気付いていない。
しかし「視察」と言っていたが、これが普通の視察でないことをシオンは見抜いていた。
このままでは、シオンの父親グレイが下の者達の心を掴んでしまう。
それを何が何でも防ぎたかったのだろう、来ることを嫌がっているドームにアークはやって来た。
他の統治者共々、アークは絶大なる権力に固執しているので、このような目立つ行動を取ったとシオンは読む。


