「アンバード家の跡取りだ」
「だけど、お前の話では……」
「あいつは、来るような奴じゃない」
「しかし……」
「わかっている。アンバード家の名前を冗談で使っていいものではないので、話は本当だろう」
「あの跡取り殿は、どんな奴なんだ?」
「後継者の身分を前面に出し、好きにやっている奴だ。パーティーの時も、女遊びが酷かった」
そのような人物が、やって来た――
どうせ点数稼ぎか、跡取りの地位を確たるものにしようとしているのか――どちらにせよ、真っ当な理由を持ってやって来たとは思えないとシオンは語る。
毒をたっぷり含んだ言葉にアイザックは苦笑すると、とんでもない人物が来ているのだと頭痛を覚えるのだった。
「大丈夫か」
「正体?」
「顔を知っているなら尚更」
「多分、バレないと思う」
パーティーに出席した時、眼鏡を外し乱れた髪も綺麗に整えていた。
それに正装していたので、今と外観が大きく違う。
だからシオンがセレイド家のシオンということに気付かないだろうと説明するが、アークは変に勘がいい部分があるので油断できないのも本音であった。
「それなら、いいが……」
「心配してくれたことは、嬉しいよ」
「僕としても、シオンの正体がバレ上に戻ってしまうことは寂しい。階級が違えども、気が合う」
「俺も、中途半端で帰りたくない」
「なら――」
「何とか、騙し続ける。あいつは持ち上げていれば、いい気分になって細かい部分に目が行かなくなる」
「何と言うか……」
「単純か」
シオンは友人が言いたいことを先読みし言葉として発すると、それが正しかったのだろうアイザックが頷き返す。
アークはねちっこく勘がいい部分を持っているが、肝心な部分は駄目といっていい。
だからその点を狙えば正体に気付かれないので、アイザックに協力を頼む。


