「シオン」
「何?」
「これって……」
「後で話す」
「了解」
流石に、今シオンにアーク・アンバードのことを尋ねるわけにはいかない。
しかしシオンの表情から察するところ、相当の人物だとアイザックは読む。
相手は全く気付いていないが、シオンの身体が微かに震えている。
どうやら、怒りを体内に溜めているのか爆発が危ない。
「では、人がいなかったのは……」
「皆、アンバード様の側にいっております」
「でしたら、仕事は……」
「勿論、やって頂きます」
「大丈夫なのでしょうか? その……相手は統治者様ですので、問題等起こったらいけませんし……」
「その心配は、ないと思います。アンバード様は、我々の仕事に好意的と申しておりました」
その発言に、シオンの発するオーラが更に変化する。
あと一撃何かが加わったら、本当に切れるのではないか――
シオンの限界が近いことを察したアイザックは、長々と会話をしていることは危険と判断する。
また、切れたら切れたでシオンの立場が悪くなってしまう。
「場所、どちらでしょうか?」
「ご案内を――」
「いえ、場所を教えて頂ければ平気です」
「で、ですが……」
「本当に、大丈夫です」
迷子になりたくないというのなら案内してもらった方がいいのだが、シオンは虫の居所が悪い。
現に目が座っており、先程から口を開いていない。
早く、この場から去らないといけない――
その思いが強いのだろう、場所の説明を受けるとアイザックはシオンを引っ張り立ち去る。
「シ、シオン」
「アークのことか?」
低音でドスの効いた声音に、アイザックは一瞬言葉を失う。
苦手な上司から無理難題を吹っ掛けられた時も、これほど機嫌が悪いことはなかった。
シオンをこれほど不機嫌にさせるアークという人物は、一体どのような奴なのか。
アイザックは、顔を引き攣らせながら質問する。


