「此方から、改良の依頼が……」
「ああ、あのことですか」
「随分、お忙しそうで」
「そ、それは……」
何か言い難い出来事が発生したのか、奥歯に物が挟まったような言い方をしてくる。
その言葉にシオンは「トラブルが発生しているのなら、手伝う」と申し出るが、相手は頭を振る。
これに関しては階級が深く関係するので、この階層で暮らしている者では対処できないという。
意味有りげな言い方にシオンとアイザックは同時に眉を顰めると、ひとつの可能性を導き出す。
階級が高い者が来ている。
そのようにアイザックが指摘すると、相手の身体が微かに反応を示し導き出した可能性が正解だったと知る。
「と、統治者様が……?」
「統治者?」
「今、この場所に……」
「いるのか!?」
「はい」
信じ難い話に、アイザックの声音は裏返っている。
一方「統治者」の名前に、シオンの顔が歪む。
一体、どの一族が来ているのか――シオンにとって其方の方が重要で、下手をしたら自分の正体に気付かれてしまう。
それを危惧したシオンは、訪れた統治者の名前を聞く。
「確か、アーク・アンバード様と――」
その名前を聞いた瞬間、シオンは心の中で思いっ切り毒付く。
よりによってアークが訪れているとは、最悪以外何物でもない。
アークはシオンにとってライバル――というか、アークの方が一方的に敵視している存在。厄介で鬱陶しくて――いい点を挙げるのは難しい。
その人物が、来ている。
シオンは「冗談じゃない」と、叫びそうになった。
「どのような用事で?」
「視察らしいです」
「視察!?」
あのアークが視察などするわけがないことを、シオンが一番理解している。
そもそもアークは下の階層に行くのを嫌がっており、同じ空気を吸うことに嫌悪感を抱いている人物だ。
その者がどのような風の吹き回しでやって来たのか理解し難いが、いい意味はないとシオンは結論付ける。


