シオンは研究室に到着すると自分が普段使用している椅子に腰掛け、キーボードを打ち報告書を完成させていく。
そしてドーム全体がオレンジ色に包まれた頃、報告書を提出し帰宅の徒に付いた。
◇◆◇◆◇◆
本当の夕日は綺麗なのか――
ふと、人工的に造り出された夕方の風景を眺めシオンは心の中で呟く。
毎日のように眺めている夕方の風景だが、今日は外界に赴いた後なので別の色彩を印象付けることとなった。
本物の空は、遠い昔に撮影されたものが映像データとして保管されている。
そのデータを再生すればいつでも本物の空を眺めることが可能だが、所詮心が宿っていない機械の目が撮影したもの。
自分自身の目で見た風景はもっと美しいものではないかと、シオンは思う。
勿論、浄化プロジェクトが成功すれば再び本物の青空を見ることができるのだが、アイザックが言うように一部の者が邪魔をしているので、プロジェクト成功は夢のまた夢といっていい。
不自由ない生活が送れるドーム内。
難題が山積の外界を浄化し、安全が確保されている安住の地を飛び出さなくてもいいのではないかという意見もないわけではないが、やはり果てしなく続く青空を眺めたいというのが人間の本能なのだろう、だからこそプロジェクトが進められる。
シオンは遣る瀬無い気持ちを表現するかのように溜息を付くと、ドーム内を走行する電車に乗ろうと駅に向かう。
その間も、人間が外界で暮らしていた当時の生活スタイルに付いて思いを巡らす。
人間の生活は、現在と昔は変化していない。
文明文化の発展は緩やかなもので、その中で著しく変化しているのは科学力と技術力。
これは浄化プロジェクトを推し進めている上での副産物か、それともドーム内の環境安定を図る中で培われてきたものか。
勿論、シオンはどちらも関係していると思う。
しかし、いい面だけが人間に齎されたわけではない。
外界に暮らしていた頃より確実に人口は減り、今も出生率が安定していない。
どちらかといえば下降気味で、ドームという閉鎖した空間が母体に悪い影響を与えているという見解があるが、その点はハッキリしていない。
だが、ドームは外界で暮らしていた当時の人口を収容できるほど広いわけではない。
現在の安定していない出生率の中でいいバランスを保っているのだから、ある意味で不幸中の幸い。
それに人間は生きていく上で食物を摂取しないといけないので、上昇は人類にとっては厄介だった。


