ドームで売られている作物や果物も、この保存場所があるからこそ生産が可能となっている。
この施設がなければドームで暮らす多くの者の腹を満たすことはできず、何より人間らしい生活を送ることができない。
そのような重要な施設に、何用か――と、シオンは尋ねる。
「改良を頼まれた」
「種の?」
「強化するらしい」
「何故?」
「外界で育てるらしい」
「今の状況で育てたところで、まともに育つとは思わないが……だから、種の改良ということか」
「プロジェクトの成功後を見越して?」
「かもしれない」
シオン達が行っているプロジェクトは、大気汚染の洗浄にある。
そのプロジェクトが成功し、外界で生活するようになった場合、真っ先に上げられるのが大地で作物が育つか否か――
それ以前に、大地に残っている有害物質が作物に吸収されるかもしれない。
その可能性が大いに考えられるので、浄化プロジェクトと同時進行で種の改良も行わないといけない。
というのが上の者の考えと、アイザックは話す。
勿論、それにはシオンの父親が関係している。
「考えられない」
「改良の話?」
「統治者が、プロジェクトに積極的だから。これに関して、他の科学者も感謝しているらしい」
「父さんらしい」
「シオンの父親が上に立っている間に、進めていきたい。他の統治者だと……正直、やり難い」
「同感」
統治者が変更したと同時に、今までやっていたころが全て中止に追い込まれたら堪ったものではない。
そうならないように早めに結果を出し、彼等を出し抜かないといけない。
また、アンバードとクルツの者は権力にしがみ付きすぎているので、彼等の動向に目を配る。
権力を維持時続けたいのなら、プロジェクトそのものを潰してしまえばいい。
しかしそれをやらないのは、多くの者の非難を浴びることがわかっているからだ。
大なり小なり、ドームで暮らしている者は外界で生活したいと考えている。
だからこそ、潰そうにも潰せない。


