アメット


「別に、強制しているわけではない。折角、可愛い服を買うのだから勿体ないと思って……」

 シオンの素直な意見に、クローリアは再びスカートを穿いている女性に視線を向ける。

 最下層にいた頃スカートを穿いていたので、穿いた経験がないわけでもない。

 今回仕事優先で選んでしまったが、シオンに言われるとスカートを一着選んでおけばよかったと思えてくる。

「もう一着、買う?」

「い、いえ」

「女の子の服を買える服は、一店だけじゃない。色々な店を見て決めればいいし、買ってもいい」

「……すみません」

「謝らなくていいよ。家政婦といっても、この階層に合った服を着ないと浮いてしまうから」

 確かに、シオンの言い分は正しい。

 自分達の周囲にいる人間はきちんとした服を纏い、行き来している。

 その中で最下層の服を聞いていたら、確実に浮いてしまう。

 現に最下層から到着した時、周囲からの視線が刺すように痛く、言葉は聞き取れなかったが噂話をされていたことを覚えている。

 それを思い出したクローリアは無言で頷くと、小声でスカートを一着欲しいとお願いする。

 オドオドとした彼女の頼みにシオンはクスっと笑うと、了承の合図というかたちで肩を叩く。

 シオンの優しさにクローリアは微かに頬を赤らめると、顔を見られないのか俯いてしまう。

「で、服を掴んでいいよ」

「そ、それは……」

「逸れる方が困る」

「で、では……」

 羞恥心が前面に出るが、服を掴むのならまだいい方だ。

 これで手を繋ぐことになっていたら、顔を紅潮し動けなくなってしまう。

 躊躇いつつもクローリアはシオンの服を掴むと、強く引っ張る。

 クローリアが服を掴んだことを確認すると、シオンはショッピングモールに向かう。




「大きい」

 巨大ショッピングモールを見たクローリアの感想は、このようなものであった。

 圧倒的な雰囲気に驚いてしまったのだろう、その場で固まってしまう。

 また、見たこともない風景に心がときめいたのか何度も溜息が漏れる。

 まさに夢の世界というべきか、次の言葉が出ない。