「中で、何か見る?」
「それでしたら……」
「別に、値段は気にしなくていいよ」
「そういう訳にはいきません」
そのようにシオンに言われても、互いの間にある階級の差は明確にしないといけない。
自分は最下層の住人で、相手はB階級の人間。
家政婦としての立場を弁え、それ以上にあれこれと注文した結果「面倒」や「我儘」とシオンに思われたくないので、控え目に振る舞う。
しかし、クローリアも普通の女の子。
控え目に振る舞っていても、可愛らしい服を見ていると感情が高ぶってくる。
また、このような服は最下層では手に入らないので、ついつい目が行ってしまう。
シオンは「好きなのを選んでいい」と言い、自身は後方で待機している。
どれがいいか――
これだけの量があると、どれを選んでいいか迷ってしまう。
服の前で悩んでいると、一人の店員がクローリアに話し掛けてくる。
突然のことにクローリアは身構え、最下層の自分に何か言われるのではないかと恐怖心を抱く。
だが、相手は罵倒しにやって来たわけではない。
「何をお求めで?」
「わ、私は……」
「可愛い服が欲しい」
見兼ねたシオンがクローリアのもとへやって来ると、店員に彼女に似合う服を数着欲しいと頼む。
店員は最初、二人を恋人同士と勘違いするが、クローリアの腕に装着されている腕輪の存在に気付くと二人の関係を知る。
だからといって、特に表情に示すことはしない。
階級が下の者とはいえ、正式な手続きを踏んで家政婦になっている。
だからといって差別意識はないわけでもないが、家政婦を雇えるシオンの方に興味を示し上客と判断する。
店員はクローリアを店の奥へ連れて行くと、彼女の体型に合う可愛らしい服を選んでいった。
「これは、どうかしら」
「私は、ファッションは疎く……」
「スカート? それとも……」
「お、お任せします」
店員の迫力に圧倒されるクローリアは、店員の言葉に素直に従うしかできない。
「できれば安い服がいい」と言いたいが、雰囲気的に言い難い。
そして店員に気付かれないように値段を確認すれば、書かれている数字に驚かされる。
どうやら、高い値段の店に入店してしまったようだ。


