アメット


「楽しみにしている」

「シオン様は、どのような料理が好きなのですか? 好物がわかりましたら、作れるように……」

「シチューは、好きだね」

「シチューですか」

 勿論、クローリアはシチューがどのような食べ物か知っているが、最下層で食べたシチューと高い階層で提供されているシチューは別物といっていい。

 この階層では、どのようなシチューが食べられているのか。

 現物を見てみたいが、流石に「食べたい」とは言えない。

 落ち着きのないクローリアの姿に、彼女が何を考えているのか察したのか「シチュー食べに行く?」と、提案する。

 突然の提案にクローリアは身体を微かに震わすと、自分が無意識に言ってしまったのか尋ねる。

 それに対しシオンは頭を振ると、顔に書いてあったと言い笑い出す。

「そ、そんな……」

「これくらい、我慢しなくていいよ。で、ドライヤーを返してくれるかな。髪を乾かしたい」

「す、すみません」

「いいよ。買い物を終えたら、シチューを食べに行こう。逆に、クローリアの好物って何かな?」

「わ、私は……」

 食糧不足が深刻な最下層では食べるだけで精一杯だというのに、好物など我儘なことを言っている場合ではない。

 ついついアイザックに尋ねるようなノリで言ってしまったが、このようなことを面と向かって尋ねるのは最下層の住人であったクローリアにとって酷といっていい。

「……悪い」

「いえ、シオン様は悪くはありません。好物ですが……見付かればいいです。どのような料理があるか、わかりませんが……」

「多くの料理を食べ、クローリアが食い付いていた料理番組を観ればいい。定期的にやっているようだから」

「観て、いいのですか?」

「風呂と一緒で、好きな時に観ていていい。俺が仕事に行っている時は、一人になってしまう」

 その話で思い出すのが、シオンの職業。

 彼は科学者として、外界の大気を浄化するプロジェクトに参加している。

 毎日決まった時刻に帰宅できるわけではなく、数日留守にすることも多い。

 だから家政婦としての最低限の仕事をしてくれれば、他は好きにやっていていいという。