父親の言葉に、将来責務を背負った時の心構えを知る。
真実を有りのままに受け入れ、偽ってはいけない。
それが統治者としての本来の立ち位置で、全ての人間の平和を願わないといけない。
父親に最下層の話をしつつ、統治者は大きなものを背負っていると理解する。
しかし、シオンは父親にクローリアについて話すことはしない。
恥ずかしいというわけではないが、何となく言い難かった。
アイザックの時と違い、父親に冗談が通じない雰囲気だから。
ただ、最下層の住人でも勉学に熱心な者がいた――と、言葉を濁し説明を続ける。
「……わかった」
「これでいい?」
「十分だ」
「最下層は、どうするの?」
「医者がいないと言ったな」
「そう、だから病人がいる」
「医者が最下層に行くのが一番だが、だからといって行く者はいない。なら、薬を回す量を増やすしか……」
「それがいいと思う」
最下層に回される薬の量が増えれば、クローリアの父親の病気も回復に向かうだろう。
だが、大気汚染を改善しないと根本的な回復には繋がらない。
これについてはどうするのか尋ねると、グレイは即答を避ける。
本音では改善を図りたいのだが、周囲が同調するかわからない。
「技術者?」
「行くと思うか?」
「……無理だと思う」
「我々に直す技術を持っているのなら、直接行くことが可能だ。しかし持っていなければ、頼むしかない」
「統治者命令は?」
「それは、難しい」
シオンの言うように統治者の権力を使い、最下層へ技術者を向かわせることも可能だ。
命令ということで赴くだろうが、仕事を真面目に行うかわからない。
ドームで暮らしている者の大半は、最下層に赴くのを嫌がっている。
命令とはいえ反発が生まれるのは必至で、下手すれば立場が危うくなる。
勿論、父親が言いたいことは理解できる。
最下層への大気調査の時も、誰もが赴くのを嫌がっていた。
名乗り出る者がいるわけがないのでじゃんけんで決められ、敗者はシオンになってしまう。
それだけ最下層へ行くことに嫌悪感が強く、完全にドームのお荷物状態だった。


