弁当も残り少しになった。箸は止めずにゆっくりと噛みしめ続ける。


「だけど、どんどん二人は俺に気を遣うようになって、優文さんなんか俺のご機嫌取りみたいになって。梓には本気で怒るくせに、俺には絶対怒らないんだ」


親に感じる距離。それは私にも覚えのある経験だ。一親等と言う程一番近いはずの親を、遠くにしか思えないやるせなさ。


「ある日聞いちゃったんだ、夜中に二人が話してるの。俺がいつまでも“お母さん”って呼ばないのは、優文さんを母親だと認めてないからじゃないかって。親父は、こんなに頑張ってる優文さんを母親と認めない俺は、バカだって。優文さんは俺とどう接していいかわからなくて、疲れちゃうってさ」


ワタシハイラナイコ。ウマレナケレバヨカッタコ。

ドウスレバイイ?ドウシタラオコラレナイ?


小さな声が蘇る。

過呼吸混じりのか細い声は、いつまでも届かないまま、私の中にこだまし続ける。


「もう、わかった。疲れた。俺を本当の家族だと思わなかったのは、あっちだ。“お母さん”って呼んでほしいなら、親父がそう言えばよかったんだ。そんなこと全く言わなかったくせに、陰で悪口言いやがって。結局俺は本当の子どもじゃないから、邪魔なんだ。考えてみればさ、俺が抜ければあの三人はちゃんとした家族だもんな。いらないんだよ俺は、邪魔者だ」


食べ終わった弁当はきちんと上蓋をしめてからゴミ箱に突っ込んだ。